翻刻
【右丁】
田村の説に肥後の玉名郡(たまなこほり)小天(こあま)村宇土郡#1綱田(かうた)村肥前長崎薩州
にあり樹も葉も橘(たちはな)に似て剌(とけ)#2多し実(み)は橙(たい〳〵)の如(こと)くにして小なり生なる
時は青(あを)く熟(しゆく)する時は黄色なり味ひ甚(はなはた)苦(にか)くして香気ありといへり
此品前条の如(こと)く春月葉の間に五弁の白花を開く形 柚(ゆ)の花に
似たり其 実(み)柚の如(こと)くにして味ひ甚(はなはた)苦(にか)くして食(くろ)ふへからす豆州に
ては此実より酷(す)#3を採(とり)て用(もち)ゆ
枸橘(こうきつ) からたち けす《割書:筑前|豊後》 しやけつくい#4《割書:備|前》
俗(そく)にきこくと昔時(むかし)よりの誤(あやま)り也樹高さ丈余に至(いた)る樹の肌柚に
似たり春月葉を生(せう)し新枝(しんし)を為す葉一葉生する毎に一剌#2を
生す葉は一 茎(けい)三葉にして胡枝子(はき)の葉の如く厚(あつ)くして硬(かた)く細き
鋸歯(かゝり)ありて深緑色 背(うら)面(おもて)ともに光沢あり春の末枝の梢(こすへ)に花
を開く白色五弁にして大さ一寸余 後(のち)実(み)を結(むす)ふ皮 厚(あつく)して緑色
也小なる物(もの)を採(とり)て枳実(きしつ)に偽(いつわ)る秋月に至(いたつ)て熟(しゆく)すれは黄色と
なる肌(はた)細(こま)かにして皮 薄(うす)し切て穣(しやう)を去(さ)り枳殻(きこく)に偽(いつは)る