翻刻
浮世(うきよ)源氏(げんじ)五十四情(ごじうよじやう)上の巻
桐壷(きりつぼ)
いときなき初(はつ)もとゆひにながきよをちぎるはじめのうゐこうむりむすぶ
二葉(ふたば)のそれならで思(おも)ひそめにし藤(ふぢ)が枝(え)はおなじ所(ところ)にありながらこだかき
みきにまつはれて手折(たおら)んことも空(そら)おそろしくさりとて思(おも)ひやみがたければ
せめてのことの思(おも)ひ出(で)にとゆかりもとめて春(はる)の野(の)に若(わか)むらさきの壷(つぼ)すみれ
恋(こい)には闇(やみ)のくらまの奥(おく)その垣間見(かいまみ)の折(をり)よりもおさなきものを思(おも)ひわび
いとまめやかにとひおとづれとかくなしつゝよう〳〵とはかりて手(て)もとへうつし
うへ今日(けふ)ぞ妹脊(いもせ)の新(にい)まくら。コレいつまでもそのようにはづかしがることはない
此上(このうへ)はそれがしをまことの親(おや)ともおつと共 思(おも)ひとり何(なに)ごとなりともうちかた
らひかならず心(こゝろ)おき給(たま)ふな。まづうちとけてへだてなくこなたへちかく