翻刻
【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
る人なれば某(それかし)に遇(あは)んといひ給ふぞ。張良が曰。吾(わ)が家(いへ)に伝(つたは)る宝剣(ほうけん)
三振(みふり)あり。誠(まこと)に世(よ)に希(まれ)なる宝剣(ほうけん)なり。遍(あまね)く天下の英雄(えいゆふ)を求(もと)め。
先(まづ)其(その)人を見(み)て次(つぎ)に剣(けん)を売(う)る。既(すで)に二(ふた)ふりは売(うり)たれども。今
一(ひと)ふり。其人に遇(あは)ずして残(のこ)し置(お)けり。将軍(しやうぐん)此(この)剣を得(え)給はゞ。威(ゐ)天下
を制(せい)せん。韓信 心(こゝろ)の内(うち)ひそかに喜(よろこ)び。今 先生(せんせい)剣を持来(もちきたつ)て示(しめ)
さる願(ねがは)くは一 見(けん)せん。張良 剣(けん)をあたへければ。韓信 灯(ともしび)の下(もと)に
て抜(ぬい)て見るに。心の内しきりに喜(よろこ)び問て曰。此剣に名(な)はなき
か。張良が曰。悉(こと〳〵)く名(な)あり。一つは天子の剣。一つは宰相(さいしやう)の剣。
一つは元戎(げんじう)の剣(けん)也。二 振(ふり)は誰(たれ)人に売給ひしぞ。曰。天子の
剣は沛公にうり。宰相(さいしやう)の剣は蕭何(しやうが)にうり候。元戎(けんじう)の剣は。
足下(そくか)に売(う)らんため特(とく)に来てすゝむるなり。韓信が曰。先生(せんせい)は韓(かん)
国の張子房(てうしばう)にてはなきか。張良が曰。将軍(しやうぐん)吾(われ)を知(しり)給ふ。韓信
大に笑(わらつ)て。先生は人中の竜(りう)なり。我(われ)爰(こゝ)を去(さつ)て漢王(かんわう)に帰(き)
せんとほつす。願(ねがは)くは計(はかりこと)を教(おしへ)給へ。張良が曰。将軍(しやうぐん)漢王(かんわう)に帰せん
【左丁 挿絵中の説明】
韓信(かんしん)剣(けん)を見(み)る
張良(てうりやう)剣(けん)を売(うり)説(とく)