翻刻
文政十二丑の年三月廿一日
朝四ツ時頃より外神田
佐久間町弐丁目/材木(ざいもく)小屋
より出火し折しも/北風(きたかぜ)はげしく
柳原土手下へ/飛(とび)火なし
御もみぐら一ヵ所/焼落(やけおち)夫より
火の手一面につよく小伝馬町
/牢屋(らうや)大門通りへ焼出大丸/呉服店(ごふくだな)
その外/大商人(おほあきんど)の/家々(いへ〳〵)土蔵又
/近辺(きんへん)を焼はらひふきや町
堺町かぶき人形/芝居(しばゐ)とも/焼失(しやうしつ)す
東は御/郡代(ぐんだい)屋敷辺馬喰町
横山町/橘(たちばな)町辺又柳橋両国
/広小路辺(ひろかうぢ)/辺(へん)焼ひろがり/矢(や)の/倉(くら)
御大名方御屋しき濱町永久
橋永代橋きはまで焼はらひ/箱崎(はこざき)
新川新堀/霊岸嶋(れいがんじま)へうつり越前様
御屋敷を初め町家/残(のこ)りなく焼
/佃(つくだ)嶋へ飛火して嶋の内こと〴〵く焼づくしぬ
又/筋違(すぢかひ)より須田町辺三河町辺鍋町鍛冶町
/立閑(りうかん)橋辺今川橋辺/銀(しろかね)町石町本町辺/駿河(するが)町
越後や両店を初め室町辺の大商人/軒(のき)をならべて焼うせ
小田原町せともの町伊勢町辺日本橋江戸ばし四日市
■【あ】らめ【荒和布】橋小船町てりふり【照降】町小あみ町辺本ざいもく町通り
海ぞく橋かやば町辺より北八丁堀南八丁堀/鉄(てつ)ほうづ辺
つき地/門跡(もんぜき)寺中残さずその外大小名御やしき一つ橋様
■■【尾張】様御■■■【蔵やし】き等/数(かす)かぎりなく/焼失(せうしつ)し又木ひき町辺は
■■■【紀州様】御蔵屋しきを■■■【初めそ】の余の御屋しき
河■■【原崎】かふき芝居町家残らず焼うせて
奥平様御屋しきまで焼 又日本橋を/焼落(やきおと)し
通■【り】町中橋ひろ小路京橋を焼落し銀座町三十間堀
尾張町竹川町新橋より/汐留脇坂(しほどめわきさか)様御屋しき少々焼失す
又一石橋川岸呉服町檜物町をけ町びくに橋弓町辺
すきやかし南なべ町辺土橋のきはまで焼く/終(つひ)に夜の
七ツ半頃やうやくにて火しづまりぬ。さればこの日は北風
殊にはげしくしてあるひは西を/吹(ふき)まく又は/東風(こち)を吹まはし
すなを/飛(とば)しちりを/巻(まき)あげ風にしたかひいとすさまじく
ほのほはしん〳〵ともえあがりてあたかも天をこがすごとく
東西南北のちまた〳〵に/老若(らうにやく)男女は/持出(もちいだ)せし
/道具(どうぐ)/衣類(いるい)をうち/捨(すて)〳〵/右往左往(うわうざわう)に/散乱(さんらん)して
/親(おや)は子を捨子は親にわかれ/夫婦(ふうふ)はなれ〴〵に
なりて道具につまつきこけまろび
踏殺(ふみころ)され焼ころされ/泣(なき)さけぶこゑ天
地にふるひて/喚叫地獄(けうくわんぢごく)【「叫喚」カ】に/異(こと)ならず目も
あてられぬありさまにてあはれといふも
おろか也/諸侯(しよかう)を初め町々のさしもに/造(つく)り
立たる土蔵の/焼落(やけおち)しこと/数多(かすおほ)くて
かぞへあぐるにいとまあらず/且(かつ)三/座(ざ)のかぶき
芝居皆一同に/焼亡(せうばう)せしこと/古今(こゝん)/未曾有(みぞう)と
/謂(いひ)つべしかゝりしゆゑ火しづまりて後/焼残(やけのこ)りし町々の/明家(あきは)は
一/時(じ)に/借り(かり)つくし/家(いへ)をもとむる/方便(てだて)なく/野宿(のしやく)するものおびたゝしく
/困窮(こんきう)たとへがたければ/恐(おそ)れ/多(おほ)くも /官府(おかみ)より御/憐愍(れんみん)を/垂(たれ)させ給ひ
たゞちに所々の/原中(はらなか)へ御/救小屋(すくひこや)を/建(たて)させられ/道路(どうろ)にをる者をこゝに/住(すま)はせ
それのみならず/朝夕(あさゆふ)の/食物(しよくもつ)までを/恵(めぐ)ませ給ひ/諸(しよ)人の/難義(なんぎ)を
すくはせ給ふ /君恩(くんおん)の/尊(たふと)き事/仰(あほ)ぎても/猶(なほ)/仰(あほ)ぎつべく/前代(ぜんだい)
/未聞(みもん)乃/㕝(こと)なりけり
【右下】
御救小屋場所
筋違橋御門外 一ヶ所
江戸橋広小路 同
幸橋御門外 同
数寄屋橋御門外 同
神田橋御門外 同
常盤橋御門外 同
松屋橋川岸 同
築地門跡前 同
【左下】
合印
▬ 御上屋敷
▲ 御中屋敷
● 御下屋敷