翻刻
爰に今此小冊を残して諺に驕平家の
久からさる事を子孫に語り伝て聞天明
の頃始て当処へ雪駄二足を商人の
持来る事を是を求得て試見ん事を
評議区々なりとかや纔に六七拾年余
の今に至りては天鵞絨の二重紐も昔の
事におもひやはた黒桟留皮をこのみ
我幼年文化の頃は適々来駕の客を
饗応すといへとも内津のさゝ波一森なんとの
煎茶を極最とす讒に二十有余の年間の
今に至りては都の辰巳しかそすむ世を宇治
山の撰葉も差別を論して是を常とす
如斯驕奢に押移る事天の悪もまた恐
怖すへし人間生死を案する時は流行
栄花を深くつゝしみ四海皆是兄弟たる
事を勤てもつて長子孫を連続すへし
今天より大災を受て暫時に繁花を昔
にかへらしむかゝる盛衰を眼前に見る
事を思ひ徒に筆を採て気欝を
紙上にさらして累代のなくさみに残す