翻刻
【右丁】
(丗三) むかし。おとこ。津の国むばらのこほりにかよひける。女此たひ
《振り仮名:いきては又は|(なりひら此たひ都へいきては也》こじと《振り仮名:思へる|(女か思ふ也》けしきなれば。おとこ
《割書:万葉》あしべよりみちくるしほのいやましに君に心をおもひますかな
かへし
こもり江に思ふ心をいかでかはふねさすさほのさしてしるべき
《振り仮名:ゐなか ̄ウ人のことにて|ゐなか人のうたには子細なくよみしと評していふ也》は。よしやあしや
(丗四) むかし。おとこ。つれなかりける人のもとに
いへばえにいはねばむねにさはがれて心ひとつになげくころかな
《振り仮名:おもなくて|(つれなくて也》いへるなるべし
(丗五) むかし。《振り仮名:心にも|(思ひの外也》あらでたえたる人のもとに
玉のをゝあはをによりてむすべればたえてのゝちもあはんとそ思ふ
(丗六) 昔。わすれぬるな ̄ンめりと《振り仮名:とひごとし|(うたかひてとふ也》ける女のもとに
《割書:万葉》たにせばみみねまではへる玉かづらたえんと人にわがおもはなくに
【左丁】
(丗七) むかし。おとこ。色ごのみ成ける女にあへりけり。《振り仮名:うしろめたく|(心もとなき義也》や思ひけん
我ならでしたひもとくなあさがほのゆふかげまたぬ花にはありとも
かへし
ふたりしてむすびし紐をひとりしてあひ見るまではとかじとぞ思ふ
(丗八) 昔きの有つね《振り仮名:がりいきたる|(有つねかもと也》にありきてをそくきにけるに。よみてやりける
君により思ひならひぬ世の中の人はこれをやこひといふらん
かへし
ならはねば世の人ごとになにをかもこひとはいふととひしわれしも
(丗九) 昔。《振り仮名:西院|《割書:(淳和帝|サイヰ》》のみかどゝ申みかどおはしましけり。其みかどのみこ《振り仮名:たかい|(崇子内親王也》
こと申す《振り仮名:いまそかり|(おはします也在の字也》ける。其《振り仮名:みこうせ給ひ|承和十五年五月十五日薨》て。御は《振り仮名:ふ|ウム》りの夜。其
《振り仮名:宮のと|(たかいこの宮也》なり成ける《振り仮名:男御|(なりひら也》はふり見んとて。女 車(〃 )にあひのりて出たり
けり。《振り仮名:久しうゐて出奉らず。|なこりをおしみて御棺を久しく出しかね奉る也》うち《振り仮名:なきてやみぬべかり|(あはれをかけてかへらんとせし也》ける間に。《振り仮名:あめの|(あめの下に》
《振り仮名:したの|かくれなき也》色ごのみ。源のいたるといふ人。是も《振り仮名:物見るに|(はうふりをみる也》。《振り仮名:此車を女車|(なりひらのくるまを也》と見て。より