翻刻
【右丁】
きてとかく《振り仮名:なまめく|(けた[さヵ]うする也》間に。かのいたる。ほたるを取て。《振り仮名:女の車に入たり|(女のかほをやみんとて也》けるを。
車成ける《振り仮名:人|(女也》。此《振り仮名:蛍|ほたる》の火にや見ゆらん。ともしけちなんずるとて。のれる《振り仮名:男のよ|(なりひら也》める
出ていなばかぎり成べきともしけちとしへぬるかとなくこゑをきけ
かのいたる。かへし
いとあはれなくぞ聞ゆるともしけちきゆる物とも我はしらずな
《振り仮名:あめの下の色好の哥にて|(やことなきうれひの所にて大きなる色このみのわさと也》は《振り仮名:猶そ有ける|(ほめあけたる也》。《振り仮名:いたるはしたがふがおほぢ也 |此詞不尤源のしたがふははるかに後の人也こゝにかけること道理明らかならず》《振り仮名:みこのほいなし|(みこのためにはほいなき哥也》
(四十)昔。《振り仮名:わかき|(なりひら也》男。《振り仮名:げしうは|(いやしからぬ也》あらぬ女を思ひけり。さがしらするおや有て。
《振り仮名:思ひもぞつくとて|(女のなりひらに思ひやつかんとて也》。此女をほかへをひやらんとす。さこそいへまだをひやらず。
《振り仮名:人の子なれ|(なりひらをいふ也》ば。まだ心いきほひなかりければ。とゝむるいきほひなし女も《振り仮名:いや |(わかきを云》
しければ。《振り仮名:すまふちからなし|おひやりをいなともうらみぬ也》。さる間に。《振り仮名:思ひはいや|(なりひらの思ひ也》まさりにまさる。俄に此女《振り仮名:をゝひ|(をひ出す也》
うつ。《振り仮名:男ちのなみ|(せつになけくてい也》だをながせども。とゞむるよしなし。《振り仮名:ゐて出ていぬ|(女を親かひきゐて出す也》。《振り仮名:男なく|(なりひら也》〳〵よめる
出ていなばたれかわかれのかたからん有しにまさるけふはかなしも
と。よみて(ン)《振り仮名:たえ入にけり。|なりひらたへ入しゝたる也》《振り仮名:おやあ|(女のおや也》はてにけり。なを思ひてこそいひしが。《振り仮名:いと |たへ入給ふ》
【左丁】
《振り仮名:かくしもあらじと思|迄はあらしと思ひしにとめいわくする也》ふにしんじちにたえ入にければ。まどひて願たて
けり。けふの入相ばかりにたえ入て。又の日のいぬの時ばかりになん。《振り仮名:からう |(しんらうして也》
じていき出たりける。昔の《振り仮名:わか人|(なりひら也》は。《振り仮名:さるすけるもの思ひ|さやうに好色ふかき思ひをせしと也》をなんしける。
《振り仮名:今のおきな。まさにしなんや |(昔はわかくてもかくたへ入するほと好色ふかし今時の人は年いたりて好色すともしぬるほとには思はしと也》
(四十一)むかし。女《振り仮名:はらからふ|(兄弟也共にも住す》たり有けり。ひとりはいやしき男のまつしき。一人は
あて成男もたりけり。いやしき男《振り仮名:もた|女の事也》る。しはすの晦日に。うへのきぬをあらひて
手づからはりけり。心ざしは《振り仮名:いたしけ|(心になれと也》れど。さるいやしきわざもならは
ざりければ。うへのきぬの《振り仮名:かた|(肩を也》を。はり《振り仮名:やりてげ|(やふりてけり也》り。せんかたもなく
て。たゞなきになきけり。是をかのあてなる《振り仮名:おとこ|(なりひら也》聞て。いと心
ぐるしかりければ。いと《振り仮名:きよらなる|(清の字也あたらしき也》《振り仮名:ろうさうのうへ|(緑衫と書六位の袍みどり色也》のきぬを。見出てやるとて
《割書:古今》《振り仮名:むらさきの色こき時はめもはるに野なる|(紫を女にたとへ其ゆかりなれはともに哀れと思ふことわかつまにかゝりてわかちなきと也》草木ぞわかれざりける
《振り仮名:むさし野のこゝろなへし |(古今に紫のもとゆへにむさしのゝといへる此うたを本哥にして読ると云作者の詞也》
(四十二) 昔。男。色ごのみと《振り仮名:しる〳〵|(しりなから也》。女を《振り仮名:あひいへり|(あひかたらひよる也》ける。されど《振り仮名:にくゝはた|(にくゝはまた思はぬ也》あらざり