翻刻
【右丁】
《振り仮名:あくた川|(禁中のあくた川》といふかはを《振り仮名:ゐていきけ|(将と書ひきあてつれて行也》れば。草のうへにをきたりけるつゆを。かれ
は何ぞとなん男にとひける。行さき《振り仮名:おほく。|(とをく》夜もふけにければ。《振り仮名:鬼有所|をつてのかゝるをか》
《振り仮名:とも|示してなり》しらで。《振り仮名:神さへ|(かみなり也》いと《振り仮名:いみじ|(こと〳〵しく也》うなり。あめも《振り仮名:いたうふ|(はなはたしく也》りければ。 《振り仮名:あばら|(人なき家也》なる
《振り仮名:くら|(座の字也》に。女をばおくにをし入て。《振り仮名:男弓やなぐ|(なりひらの用心也》ゐをおひて。とぐちにをり。はや
夜もあけなんと思ひ《振り仮名:つゝゐたり|(あかしかねたる也》けるに。《振り仮名:鬼はや一くち|(をつかけて女を取かへすをいへり》にくひてげり。あなや((女のさけひた)
といひ(るをと也)けれど。神なるさはぎにえきかざりけり。やう〳〵夜もあけ行に見
れば。《振り仮名:ゐてこし女|(つれてきたる女也》もなし。あしずり((踏跎と書)をして なけども((かなしめとも)かひなし
《割書:新古今》しら玉かなにぞと人のとひし時露とこたへてきえなましものを
これは((作者の詞也)二条の后の。いとこ((染殿后也)の女御の御もとに。つかうまつるやうにて。ゐ給へり
けるを。かたちのいと《振り仮名:めでたくおはし|(うるはしくほめたる詞也》ければ。ぬすみておひて出たりけるを。御
せうと。(あに也)《振り仮名:ほり川のお|(昭宣公二条后の兄也》とヾ。《振り仮名:太郎くにつね|(昭宣公の兄也》の大なごん。まだ《振り仮名:げらう|(殿上人の時也》にて。内へ((参内也)
まいり給ふに。いみじうなく人有を聞付て。とゝめて取かへし給ふてげり。それをかく
鬼とはいふなりけり。まだいとわかうて。后の(二条后)《振り仮名:たヾにおはしける|(いまだ御入内もなくて也》時となり
【左丁】
(七) むかし。おとこ有けり。京に有わびて。あづまにいきけるに。いせを
はりのあはひのうみづらを行に。なみのいとしろくたつを見て
《割書:後撰》いとゞしく過行かたの恋しきにうらやましくもかへるなみかな
と。なんよめりける
(八) むかし。男有けり。京や。すみうかりけん。あづまのかたに行て。
すみ所もとむとて。友とする人。ひとりふたりして行けり。しな
のゝくに。あさまのだけに。けふりのたつを見て
《割書:新古今》しなのなるあさまのだけに立けふり をち((遠近)こち人の見《振り仮名:やはとが|(やすめ字也》めぬ
(九) 昔。おとこ有けり。其男。《振り仮名:身をえう|(述懐の心有て也》なきものに思ひなして。京には
あらじ。あづまのかたに。すむべき国もとめにとて行けり。もとより友と
する人。ひとりふたりしていきけり。道しれる人もなくて。まどひいきけり。
みかはの国。八はしといふ所にいたりぬ。そこを八はしといひけるは。水行川
のくもでなれば。橋を八わたせるによりてなん。八橋といひける。其さはのほ