翻刻
【右丁】
思ひける。此むこがねによ((なりひらの恐へききりやう也) ̄ンみておこせたりける。住所なん。いるまの郡。みよしのゝ里成ける
みよしのゝたのむのかりもひたふるに君が方にぞよるとなくなる
むこがね((なりひら也 )【注】かへし
わがゝたによるとなくなるみよしのゝたのむかりをいつかわすれん
と。なん。人の国に て(・)も。なを かゝる((好色のこと也)ことなん。やまざりける
(十一) むかし。男。あづまへ行けるに。友達共に道よりいひおこせける
《割書:拾遺》
わするなよほどはくもゐになりぬともそら行月のめぐりあふまで
(十二) 昔。男有けり。人のむすめをぬすみて。むさしのに ゐてゆ((つれて行也)く程に。
ぬす人なりければ。国のかみにからめられにけり。女をばくさむらの中に
をきてにげにけり。みちく((道くる人也)る人。此野はぬす人 《振り仮名:あ ̄ン|(有なり》なりとて。火つけんとす。女わびて
《割書:古今》
《振り仮名:むさし野はけ|古今にはかすかのと入たり》ふはなやきそわかくさのつまもこもれり我もこもれり
と。よみけるをきゝて。女をは とりてとも((女をぐしてかへる也)にゐていにけり
(十三) 昔。むさしなる《振り仮名:男。|(なりひら也》京なる女のもとに。きこゆればはづかし。聞えねばくる
【左丁】
しとかきて。上がきに。武蔵鐙と書て。をこせて後。《振り仮名:音もせず成に|(なりひらをとつれせぬ也》ければ。京より女
むさしあぶみさすがにかけてたのむにはとはぬもつらしとふもうるさし
とあるを見てなん。たえがたきこゝちしける
とへばいふとはねばうらむ((とへばうるさしといふとはねはつらしとうらむる也)むさしあぶみ《振り仮名:かゝる折にや人はしぬら|(かゝる折にはしぬるよりほかせんかたなしこと也》ん
(十四) むかし。男。みちの国に。《振り仮名:すゞろに行|(心ならす也右にも後?す》いたりにけり。そこなる女。京の人は
めづらかにやおぼえけん。《振り仮名:せちに思|(しんせつに思ふ也》へる心なんありける。さてかの女
《割書:万葉》
なか〳〵にこひにしなずはくわごにぞなるべかりける玉のをばかり
うたさへぞ。ひなびたりけ((いやしくゐなかめきたる也)る。さすがにあはれとやおもひけん。いきて
ねにけり。夜ふかく出にければ女
よもあけば きつ((狐也 )にはめなで くだ((家鶏也)かけのまだきになきて せなを((夫のこと也)やりつる
と。いへるに。おとこ京へなんまかるとて
くりはらのあねはの松の人ならば都のつとにいざといはまし
と。いへりければ。よろこぼひておもひ((男われを思ひけりといひて女のよろこびし也)けらしとぞいひをりける
【注 むこがね=婿の候補者。】