翻刻
【右丁】
の泡(あわ)に似(に)たりとて泡瘡(ほうさう)ともいふ又(また)イモといふは古(いにし)へ此(この)病(やまひ)流行(はやれ)れば
殊(こと)の外(ほか)忌(いみ)嫌(きら)ふ故(ゆへ)にイムといふ意(こゝろ)なり又モガサといふは頭面(かほ)惣身(からた)瘡(てもの)
を発(はつ)し其(その)形(かたち)癩病(らひびやう)に似(に)たりとて古(いにし)へ此(この)病(やま)ひを患(わつら)ふものあれば山(やま)
奥(おく)に捨(すて)置(おき)て人家(ひとさと)をへたて人路(つうろ)を絶(やめ)て喪(も)に居(を)る人(ひと)の如(こと)くする故(ゆゑ)に
喪瘡(もかさ)といふ説(せつ)あり我(われ)先氏(せんぞ)の業(ぎやう)を嗣(つぎ)て痘科(ほうそう)に志(こゝろさし)を深(ふか)ふし余(あ)
多(また)の痘疹(ほうさう)の書(しよ)を取(と)り合(あは)せ考(かんか)ふるに唐土(もろこし)も古(いにし)へはかくありしよし
又(また)韃靼(たつたん)類種(るひしゆ)に郷裏(さとのうち)痘瘡(ほうさう)を患(わつら)ふ者(もの)あれば深谷(やまおく)に移(うつ)し置(おき)生否(よしよし)#1を
天(てん)に任(まか)せ人跡(ひとのつうろ)を絶(やむ)となり今(いま)
日本(にほん)にも其(その)例(れい)あり聞及(きゝおよ)ふ所(ところ)を此(こゝ)にしるしぬ
肥前(ひせんの)国/天草(あまくさ)肥後(ひこの)国/熊本(くまもと)周防(すはうの)国/岩国(いはくに)紀伊(きいの)国/熊野(くまの)信濃(しなのゝ)国/木(き)
【左丁】
曽(そ)山中(やまなか)御嶽山(みたけさん)の辺(へん)等(など)におひて痘瘡/患(わつら)ふものあれば一/郷(さと)一/村(むら)を隔(へたて)て
人家(ひとのいへ)を去(さる)こと一二/里(り)にして山野(のやま)深谷(たになど)に小屋(こや)をしつらひ或(また)ヽ#2農家(のふか)を
かりて傍人(そへひと)をつけ置(おき)て食物(くひもの)など始(はし)めにはこばせ一家(いつけ)親類(しんるひ)たりと
も出入(でいり)を絶(やめ)て医(いしや)をむかへて薬りを用(もち)ゆる事も少(すくな)し偶(たま〳〵)薬(くす)りを
用(もち)ゆといへども誠(まこと)に疎忽(あらまし)なる事のみ多(おほ)し又(また)或は国々(くに〳〵)浦々(うら〳〵)にては
鬼神(おにかみ)の病(やまひ)と称(とな)へて薬(くす)りを用(もち)ひずたゞ清浄(しやうじやう)を専(もつはら)として巫祝(いのりごと)を
信(しん)し祈祷(きたう)のみするもありいかにも痘瘡には穢気(けがれ)不/浄(じやう)を忌(いみ)て
飲食(くひもの)禁好(よしあし)を詳(つまひ)らかにして調護(かひほう)を能(よく)守(まも)るときは順(じゆん)なるものは薬(くす)
りせずして愈(いへ)険(けん)なるものも薬(くす)り宜(よろ)しきにかなへば順(しゆん)に転(てん)し逆(ぎやく)
なるものも十に四五を治(なを)し得(う)る事(こと)ありと活幼心法(くはつようしんはう)に見えぬさ