翻刻
【右丁上段】
▲やまひにつかれしん〴〵くたぶれたる
人は手あしなどかなはぬ事有とも
ゆぶねにつかりてあびすごさず。つのを
なをし牛を殺(ころす)ことし能々(よく〳〵)つゝしむべし
▲しよくじにてもくすりにてもね
つしやうのものはわろしことにかんれい
の物ももちゆべからずこはくかたき物わろし
▲ゆあがりの日あめかぜのはげしき
ときはしかるべからずいかにもてん気
よき日出らるべきなり
【右丁下段】
【見出し】しゐがもと【源氏香の図】【見出し語上部左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は哥をもつて名とする也。
かほるの宰相(さいしやう)になり給ひての
四年めなり。かほる廿二歳 ̄の春(はる)より。次(つぎ)の年(とし)廿三歳
のなつまでのことあり。宇治(うぢ)のみやにはかほる
まいり給へば。悦(よろこひ)給ひてなからんあとの事。姫君
などのことまでかず〳〵申(まうし)おき給ひければ。
かほるもかはらぬ心ざしをしらせ給はんとの給ふに。
宮の哥に〽われなくて草(くさ)の庵(いほり)はあれぬ共。
このひとことはかれじとぞ思ふ。そのゝち宮は
しづかなる所にて念佛(ねんぶつ)せんとて。山寺にこもり
給ひついにそこにてむなしくなり給ふを。かほる
かなしく思し給ふ。宮かくれ給ひてのち。あれ
たるを御らんじて。かほるのよみ給ふ〽たち
よらんかげとたのみししいがもと。むなしき
とことなりにけるかな◯此心は古哥(こか)に。うば
そくがをこなふ山の椎(しい)がもと。あなうは〳〵し。
とこにしあらねば。この哥につきて うば(今の)そく
のみやのおはせし御ゆかをいへり。かほるの出(しゆつ)
家(け)し給はゝと。たのみ所にてありしものを。その
人もなければむなしき床(とこ)となりけるよとの心也
【左丁上段】
【見出し】つれ〳〵四 季(き)之 段(だん)【見出し語の上下左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
◯おりふしのうつりかはる社物ことに
あはれなれ。物の哀(あはれ)は秋こそまされと
人ごとにいふめれど。それもさるものにて
今ひときは心もうきたつ物は。はるの
けしきにこそあめれ鳥のこゑなども
ことの外に春めきてのどやかなる日
影(かげ)にかきねの草もえいづる比より。やゝ
春ふかく霞(かすみ)わたりて花もやう〳〵
けしきたつ程こそあれ折しも雨(あめ)
風うちつゞきて心あはたゝしく。ちり
すぎぬ青葉(あをば)になる行までよろつに
たゞ心をのみぞなやますはなたちばなは
名にこそおへれ。猶(なを)むめのにほひにぞ。古(いにし)へ
の事も立かへり。こひしう思ひいでしるし。
やまぶきの。きよげに藤(ふぢ)のおぼつかなき
さましたるすべて思ひすてがたき事 多(おほ)し
灌仏(くはんぶつ)の比(ころ)。祭(まつり)のころわか葉(ば)のこすへ涼(すゞ)し
げにしげりゆく程こそ世のあはれも。人の
【左丁下段】
総角(あけまき)
あけ
まき
に
なかき
契(ちきり)
を
むすび
こめ
おな
じ
ところに
よりも
あはなん