翻刻
【右丁上段】
くるしからず。但し老(をひ)たるや。気りよくの
つよきと。よはきは。大きにかはるべし。冬は
とうひやうあらずとて。しやうとく【生得=生れつき】かすなき人
気りよくよきまねをすべからず。よくつゝしむべし
▲湯船(ゆぶね)に久しくゐる事。第一しかるべからず。
ゆはぬるきをほんとす。あつければねつをうる
なり。身ねつすればかぜをひく。かへつてかん
のもとひなり
▲しよくごにそのまゝゆに入べからず。こと
さらかみなどあらふ事。そのときに至り
てしんしやく【斟酌】あるべし
▲たうじの間。酒をてうじあるべし。もし
ふくせば。あたゝめてすこしくるしからず。
ことにゆにいりまへと。あがりてそのまゝ
のむべからず
▲やまひにつかれ。きりよくをとろへたる
は。らうにやくによらず。一日に一ど。もしは
二度ゆをぬるくしてかゝるべし。やまひに
よりて三(み)びしやく。五びしやくかゝるべし
ゆぶねに入る事ゆめ〳〵あるべからず【別本にて】。かく
【左丁上段】
のごとく日かずをへてやうじやう有べし
これにてせんやくあとしゆやう【須用】する事
しかてふせいのものしかるべし。かさけ【風邪気】の
人は薏苡(よくい)桑(くは)又 中風(ちうふう)の人はきくをせんじて
ふくすべしゆすぐればりけつするなり
これによつてしややく【瀉薬】を用ひてよろし
▲こゝにてのかうせきは御やどにてのごとく
なるべし但しぶやうじやうならん人の気
にはあらずよのつねのごとし
▲たうぢの間ひるねすべからずことさら
ゆあがりにいねつればあせはしりけつ気
ひちがひあやまちこれ有そうへつ【総別=概して】汗(あせ)
をたらす事わろし秋冬の湯にあせの
たる事あしきなり
▲こゝにていんじをもらす事第一のどく
なりゆより出ゝも二七日三七日はつゝしむへし
▲ぬれたるかたびらきる事なかれ
たうじのあいだきうじすべからす
▲こゝにてにくをしよくせずといへども
やうじやうの人はくるしからず
【右丁下段】
【見出し】はしひめ【源氏香の図 注】【見出し語の上部左右の角の飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は歌をもつて名とする也
かほる十九歳より二十一の歳
まての事見えたり。これより宇治(うぢ)十 帖(でう)のうちなり
宇治にふるき宮(みや)住(すみ)給ふ。此 宮(みや)はきりつぼのみかど
八の宮げんじには御おぢ也。れいぜいゐん御 位(くらゐ)
のおり。しゆしやくゐんの御はゝよきに思しめして。
此八のみやを御くらゐにたてばやと。思召有けれ
ども。御心もちあしければにや。都(みやこ)の住(すま)ゐむつか
しく宇治(うぢ)の山 里(ざと)のれうちにうつり住せ給ふ
ゆへ。うぢの宮(みや)とも。うばそくの宮とも申也。姫君
一人もち給ふ。此宮はなにごとの道にもたつし
給へば。かほるまいりて物ならひ給ふに。姫君も思ふ
心あり。さてかほるのよみ給ふ〽はしひめの心を
くみてたかせさす。さほのしづくに袖ぞぬれぬる
此心は。姫君をはし姫によそへていへり。下句(しものく)は
かほるの身によそへたり。姫君の此所につれ〳〵と
ながめ給ふ心をくみて。かほるの袖(そで)をぬらすと也
高瀬(たかせ)は舟なり。あやしき舟ともに柴(しば)つみて
とある詞をうけていふべし。ふかく思ひ入ありて
よめるうたなり
【注 図が違っている。正しくは左から二本目の線は上の横線に付かない。】
【左丁下段】
椎本(しゐかもと)
たち
よら
む
かけ
と
たの
みし
しゐ
がもと
むなしき
とこに
なり
ける に
かな