翻刻
倩世の中を見るに愚痴(ぐち)なる貧者年々
蚕はつす時はゆへなく種元を恨み隣の宝を
かそへて先祖の業をかんし身に不自由のく
るしみをあたふる事あさましき事共かな
又蚕のために仏神を祈りて感応有といへ
とも養育の理にとゝまらさる時は徒(いたつら)にしても
しるしあらし庶幾(こいねかわく)は世の中の下手は上手に
習へし上手は経たに教よかしと思へとも
とふに甲斐なき浮世かな我たま〳〵此理を得
るといへ共世の中の蚕愚なる人に教へん
とするは憚多しせめては永く子孫に
伝へんとするこゝろのみにて是をつゝり畢
歌に〽とにかくに書も夢なり読も夢ゆめさめやらぬ憂世なりけり
旹【時】正徳二年壬辰十一月 上州群馬郡桃井庄
馬場氏重久綴之
于時宝暦五乙亥初夏 津金氏豊常写之
うつし置人も夢なり
写すのも
夢のゆめ成夢の跡かな