翻刻
【右帖】
右の教若無據望有て人是を広く及ほすと
きは寒国暖国のわけ有又干湿の土地ありそれは
いつれも補に多少の品を以かわるへし養蚕の
理におゐては全く替るへからす又云世の人 愚(をろか)
にして我より他の勝るをそねみ妬(ねたむ)是蚕には
限らされ共かいこ先は婦人の仕業なれは其妬
深し慎むべし
あけうばふ柴【原典:紫】にだになかりせは勝れし通をたれかにくまん
我此書を作るといへとも身不祥にて覚智の余力
なし故に文つたなく文字の誤有へし程_レ然我
廿の年より蚕は養育にとゝまるものにと覚へ
【左帖】
随分心にかけて近辺の上手と云人に養育の理を
尋又有所に一代の内蚕に不足とらさる老女あり
かれに委しく習ひ込是を元として或は近国の
蚕繁昌なる所の術を聞又近所合壁にて蚕
仕損したる其根をたゝし有年は蚕の種
色々出し初中後を産せためし養をして
休起に滞たる發元を知又有時は上繭壱升
の蚕の数をとめ下まゆ壱升の蚕の数をとめて
まふし一籠の【農】損徳をかんかへ此外あらゆる
ためしに妻諸共に心を尽し三十年来を
へて今五十歳に及漸蚕養育の理を依得(えとく)す