翻刻
【右丁】
けるさしもたけき弓とりも霧
のまよひにわろひれて弓のもと
すゑをたにもしらされは引へき
やうこそなかりけれ此霧計に
おかされてさうはのみくつ【蒼波の水屑】と
ならん【溺死する意のたとえ】
ことうかりなんとそなけきける大臣
殿は無念至極に思召今ならて
いつのとき神の力をあふくへ
きとおほしめされける間うしほを
むすひててうづとし南無天照
太神宮其外六十余州の大小
の神祇此霧はらしてたひ給へと
きせいを申させ給ひてけれは
【左丁】
あら有難やきせいのしるしはや
見えていせの国■【萩或は荻ヵ】あらしに霧
も程なくすみよしの松ふく風も
すゝしくてまよひのやみもしら
山の雪よりはやくきえけれは
いつしかかしまかんとり【舵取り…「かじとり」の変化した語】もよろこひ
のほをそあけにける大臣殿は
なのめならすに御よろこひ有て
さらはいくさをはやめんとてはし舟
おろさせ給ひ熊大せいはむやく【無益】
思ふ子細の有そとて十八人を引
くしてむくりか船人そかゝられ
ける