翻刻
【右丁】
はしや君はむくりか大将りやう
さうと申ものとをしならへく
ませ給ひ二人なから海底にしつ
ませ給ひて其後又も見えさせ
給はねはその思ひのみふかうして
いくさにかちたるしるしもなく
御前へ参り候なりさりなから御
かたみの物をは給はつて候と御
きせなか【着背長=大将などの着る正式の大鎧の美称】とかねの弓御釼をそへ
て参せ上るみたい所此よし御
らんして是はふしきの事共かな
かたきとくませ給はんにいつの隙
に御かたみをとゝめてうみに入
【左丁】
給ふへきそや前後ふかくの事を
申物かなあはれもの兄弟を取
てをさへてかうもん【拷問】しめしとは
はやとは思へともはかなき女性
の御事なれは心ひとつにくたし
つゝれんちう【簾中】ふかく入給ひかた
みの物をめしあつめいたきつか
せ給ひてりうてい【流涕】こかれ【焦がれ】給ひ
けれは御前中ゐの女房たち
一どにはつとなけきけれはよその
たもとにいたるまてしほるはかりに
あはれなり