翻刻
三世(さんぜ)休(やま)ず戦(たたか)ふも斯(かく)やと覚(をぼ)へて無慙(むざん)なり平家(へいけ)射調(いしら)はれて船(ふね)ども少々(せう〳〵)漕(こぎ)■■んす
判官(はうぐはん)勝(かつ)にのつて馬(むま)の太腹(ふとはら)まで打入(うちいれ)て戦(ただか)ひけり越中(えつちう)の治郎兵衛盛嗣(ぢらうべうへもりつぐ)折(おり)を得(え)たり
と悦(よろこ)びて大将軍(たいせうぐん)に目をかけて熊手(くまで)を下し判官(はうぐはん)をかけんと打(うち)かけたり判官(はうぐはん)
■(しころ)【革+固 𩊱】頎(かた)ふけて懸(かけ)らじ懸(かけ)られじ〳〵と太刀(たち)をぬき熊手(くまで)を打(うち)のけ〳〵する程(ほど)に脇(わき)挟(はさ)み
たる弓(ゆみ)を海(うみ)にぞ落(おと)しける判官(はうぐはん)は弓(ゆみ)を取(とつ)て上らんとす盛嗣(もりつぐ)は判官(はうぐはん)をかけて引(ひか)ん
とす元より危(あや)ふく見へければ源氏(げんじ)の軍兵(ぐんべう)あれは如何(いか)に〳〵其(その)弓(ゆみ)捨(すて)給へ〳〵と声(こへ)〴〵に
申けれども太刀(たち)を持(もつ)て熊手(くまで)を会釈(あしら)ひ左(ひだり)の手(て)に鞭(むち)を取(とつ)て掻(かき)よせてこそ取(とら)れける軍(ぐん)
兵(べう)等(ら)が従(たと)ひ金銀(きん〴〵)をのべたる弓(ゆみ)なりとも怎(いかが)壽(いのち)に替(かへ)させ給(たま)ふべき浅猿(あさまし)〳〵と
申ければ判官(はうぐはん)は軍将(ぐんせう)の弓(ゆみ)とて三人 張(ばり)五人 張(ばり)ならば面目(めんぼく)なるべし去(され)ども平家(へいけ)
に責(せめ)つけられて弓(ゆみ)を落(おと)したりとて彼(あち)とり此(こち)とり強(つよ)きぞ弱(よは)きぞと披露(ひらう)せ
んこと口惜(くちおし)かるべし又 兵衛佐(ひやうへのすけ)の漏(もれ)きかんも言(いひ)甲斐(かひ)なければ相構(あいかま)へてと取(とつ)たりと宣(のたま)へば