翻刻
調煉(ちゅうれん)し。専(もつは)ら軍戦(くんせん)の用意(ようい)をなし給ひしが。程(ほと)なく七月になり□□□□
正行公 諸士(しよし)を本丸(ほんまる)の大広間(おほひろま)に会合(くわいがう)させ給ひ。扨(さて)仰(おゝせ)けるは先年(せんねん)予(われ)京(きやう)
都(と)を攻(せめ)んと思立(おもひたち)しを。安間了願(あんまりやうぐわん)時努(しむ)を説(とき)て諌(いさめ)止(とゝめ)し故(ゆへ)。其(その)言(ことは)につきて
既(すて)に二年を経(へ)たり。最早(もはや)足利(あしかゞ)旗下(きか)の族(やから)内乱(ないらん)を生(しやう)ぜんに程(ほど)も有まじ
けれども。兎角(とかく)朝庭(てうてい)の御政(おんまつりこと)正(ただ)しからず。只管(ひたすら)恨(うら)み奉るもの者(もの)のみ多(おほ)し。扨(さ)
ては聖運(せいうん)を開(ひら)かせ給はん事(こと)難(かた)かるべし。其故(そのゆへ)は山中(さんちう)伺候(しかう)の公卿(くぎやう)の御領(こりやう)をば
足利方(あしかゞかた)の者(もの)とも奪取(はいとつ)て。押領(おうりやう)する輩(ともから)多(おほ)し。此者等(このものとも)味方(みかた)の鉾先(ほこさき)強(つよき)
を恐(おそ)れ。押領(おうりやう)する處(ところ)の国郡(こくぐん)をだに賜(たまは)らば。官軍(くわんくん)に属(そく)し奉らんと望(のそ)む
□(??)【者(もの)ヵ】是彼(これかれ)数(す)十人に及ふこれ天より下(くだ)し給ふ所(ところ)の幸(さいはい)なり。依(よつ)て予(われ)是(これ)を執(しつ)
達(たつ)し策(はかりこと)を献(たてまつ)ると雖(いへとも)皇居(くわうきよ)の公卿(くきやう)只(たゝ)私欲(しよく)を先(さき)として。是(これ)は丸(まろ)か所領(しよりやう)彼(かれ)は
予(よ)が領地(りやうち)などゝて許(ゆる)し給はず。当時(たうし)の武士(ぶし)は貪(むさぼつ)て飽(あく)事(こと)をしらず。利欲(りよく)を
もつて招(まね)き集(あつめ)ば。足利(あしかゞ)を亡(ほろぼ)さん事安かりなん。而(しかふ)して世(よ)太平(たいへい)に皈(き)せばいか