翻刻
様(やう)とも計(はから)らわる扁紀に。公卿(くきやう)等(ら)愚昧(くまい)にして是(これ)を悟(さと)り給はず。今(いま)の如(こと)くにて
は人を懷(なづくる)の道(みち)絶果(たへはて)。如何(いか)なる奇計(きけい)良策(りやうさく)を奉るとも。本意(ほんい)を達(たつ)する■【事ヵ】
能(あた)はし。正行又 日(ひ)を追(おつ)て病苦(ひやうく)増(まし)。夜(よ)にまして気力(きりよく)衰(おとろ)へ。中々(なか〳〵)敵(てき)の内乱(ないらん)を■(??)【待(まち)ヵ】
遂(とぐる)迠(まで)の存命(そんめい)思(おもひ)もよらず。依(よつ)て短慮(たんりよ)には似(に)たれども。速(すみやか)に京都(きやうと)へ攻登(せめのほ)り。有(う)
無(む)の一戦(いつせん)をとげ。事ならずんば骸(かばね)を軍門(くんもん)に曝(さらさ)んと。思慮(しりよ)既(すて)に決(けつ)したり。予(われ)
と同意(とうい)の人は随(したか)ひ。時節(じせつ)を待(また)んと思ふ人は止(とゝどま)り候へ。残(のこ)るも随(したか)ふも君の為(ため)天(てん)
下(か)の為なれば。腹藏(ふくざう)なく申候へと。座中(さちう)を見渡(みわた)し宣(のたま)ひければ。新発意(しんほち)源秀(けんしう)
衆人(しうしん)の言(ことは)をもまたす進(すゝ)み出(いで)。御諚(ごぢやう)尤(もつとも)に候。当事(たうし)の公卿(くきやう)の政事(せいし)にては。本意(ほんい)を
達(たつ)せん事思ひもよらす。只(たゝ)公家(くけ)の政(まつりこと)に拘(かか)はらず。当館(たうやかた)より賞禄(せうろく)の沙汰(さた)し給ひ
太平(たいへい)の後(のち)兎(と)も角(かく)も計(はか)らひ正(たゝし)給ふとも何(なん)の障(さわり)か候べきと事(こと)もなげに申ける
正行 頭(こうべ)を揮(ふり)たまひ。否々(いや〳〵)夫(それ)は足利(あしかゞ)に等(ひと)しく。上(かみ)を蔑(ないかしろ)にするにて朝敵(てうてき)同前(どうせん)
たらん。志貴(しぎ)神宮寺(しんくじ)等(ら)口を揃(そろ)へ。何分(なんふん)一旦(いつたん)尊氏(たかうし)と雌雄(しゆう)を決(けつ)し給ひ。渠等(かれら)を討(うち)