翻刻
公(こう)もおしみ歎(なげ)かせ給ひける父(ちゝ)の右近正尚(うこんまさなを)は此時浅井 掃部(かもん)同半助
等(ら)と火(ひ)をちらし戦(たゝか)ひしが久蔵が討死(うちじに)のよしを聞(きゝ)ければともに死せん
と群(むらがる)敵(てき)の中へかけ入を郎等(らうどう)数多(あまた)かけへだて轡(くつは)にすがつて諫(いさめ)けるは
此 軍(いくさ)味方(みかた)敗北(はいぼく)するにもあらず大将の御大事とも覚へ候はぬ物をいかに
狂(くる)ひ給ひて討死(うちじに)を急(いそ)ぎ給ふぞや既(すで)に御手勢 戦(たゝか)ひ労(つか)れ今は用に
立がたし早(はや)く勢を引(ひき)上て始終(しじう)の勝負(しやうぶ)を御 覧(らん)ぜられ其 後(のち)にこそ兎(と)
もかふも御 計(はから)ひの有べきとてあながちに引かへせば右近(うこん)其 理(り)に屈服(くつふく)し
涙(なみだ)をふるふて退(しりぞ)きける
木村又蔵 勇力(ゆうりき)
坂井 右近(うこん)ふたゝび勢を引あげければ浅井方 是(これ)に気(き)を得(え)て佐久間(さくま)
池田(いけだ)が兵(へい)を切 破(やぶら)んといどみ戦(たゝか)ふ前(さき)に敗(はい)せし磯野丹波守 後陣(ごぢん)に扣(ひか)へて