翻刻
有けるが此ありさまを見て備(そな)へを立 直(なを)し長政が勢(せい)と一 所(しよ)に成り戦(たゝかい)を
助(たすけ)んとす木下藤吉郎 秀吉(ひてよし)以前(いぜん)戦(たゝか)ひ半(なかば)にして左右へ分(わか)れて休(やす)らひ
居(い)けるが磯野(いその)が勢 惣(さう)がゝりに攻討(せめうつ)と見へければ急(いそ)ぎ士卒(しそつ)を下知(けぢ)して
長政の後(しりへ)磯野が前(まへ)に喚(をめ)ひてかけ入 前後(ぜんご)にあたつて戦(たゝか)ひける此 合戦(かつせん)
の有 様(さま)こそ只(たゞ)ならね東の方は信長公の籏本にして氏家(うぢへ)安藤(あんどう)の二
将浅井の先手(さきて)赤尾(あかを)中西 等(ら)と戦(たゝか)ひ其 次(つぎ)は佐久間(さくま)池田(いけだ)が輩(ともがら)長政の
籏本と合戦(かつせん)をなし長政の後(うしろ)に木下藤吉ありてこれといどみ戦(たゝか)へば
其後(そのあと)は磯野丹波守木下が軍(ぐん)と合戦す信長 駿州(すんしう)今川 義元(よしもと)と桶(をけ)
狭間(はざま)に戦(たゝか)ひしより已来(このかた)かくのごとき烈(はげ)しき戦(たゝか)ひなし矢叫(やさけ)び鉄炮(てつほう)
の音(をと)は大 空(ぞら)に響(ひゞ)きわたりて鳴神(なるかみ)よりも冷(すさま)しく打合(うちあは)す太刀(たち)の輝(ひかり)
は雷光(いなづま)に似(に)て雲間(くもま)を照(て)らし馳(はせ)ちがふ人馬(にんば)喚叫(をめきさけ)ぶ鯨波(とき)の声(こへ)上天(しやうてん)