翻刻
戦(たゝか)ひも更(さら)に益(ゑき)なしいかに城中の軍士(ぐんし)兵卒(へいそつ)慥(たしか)に我言(わがことば)をうけたまはれ
城将(じやうしやう)大 野木(のき)佐渡守(さどかみ)愚(をろか)にして忠義(ちうぎ)をしらず此城にて自滅(じめつ)せんとす
皆(みな)〳〵主将(しゆしやう)にかゝはらず心次第(こゝろしだい)思ひ〳〵に落(をち)行べし信長公の御 下知(げぢ)に
て途中(とちう)におひて少(すこ)しも妨(さまだ)げ有べからず只(たゞ)一人の臆病(をくびやう)にさへられ城中 残(のこ)
らず餓死(がし)せん事 更(さら)に便(びん)なき事なれば態々(わざ〳〵)命(めい)を伝(つた)ゆる也と生(うま)れ
得(え)たる大 音(をん)にて響(ひゞき)わたつて演(のべ)たりける是(これ)を聞(きい)ていとゞさへ勇気(ゆうき)
たるみし士卒(しそつ)ども塀(へい)をこへ堀(ほり)をわたり降参(かうさん)〳〵と呼(よば)はりて我 先(さき)に
と落(をち)行 程(ほど)に大 野木(のき)佐渡守(さどかみ)大きに怒(いか)りさま〴〵下知(げぢ)し制(せい)すれ
ども耳(みゝ)にも更(さら)に聞(きゝ)入ず終(つい)に大手の城戸(きど)を開(ひら)き五十 騎(き)百騎 落(をち)
行にぞ大野木今はこらへがたく手勢 纔(わづか)に二百 余(よ)人 真(ま)一 文字(もんじ)に秀吉(ひでよし)
目がけ切て出たり待(まち)まふけたる木下勢四方より取囲(とりかこ)み一 騎(き)も残(のこ)さず