翻刻
|大輪(たいわ)|落(おつ)るも|多(おほ)し。故(かるがゆへ)に人心(じんしん)|何(なに)となく|恐怖(きやうふ)やまず。|日夜(にちや)
|易(やす)き|心(こころ)もあらずして。|只(ただ)|安全(あんぜん)をのみ|願(ねが)ひしに。|原(もと)より
|泰平(たいへい)の|大御代(おおみよ)ことさら
公にも|諸社(しよしや)|諸山(しよさん)に|御祈(をんいのり)を |命(めい)し給ふよし。よりて
七月の|末(すへ)つかたには。|稍(やゝ)|震(ふるひ)の|数(かず)も|減(けん)じ今八月|初旬(はじめ)
には|一昼夜(いつちうや)わづかに五六|度(ど)となりしは。|最(いと)有がたき
|聖代(せいたい)と|万民(まんみん)こぞつて|歓(よろこび)をなし侍るあなかしこ
此|一帖(いちてう)は|些(すこし)も|世(よ)の弄ひのためしるすにあらず|遠国(ゑんこく)
|辺境(へんきやう)にてはさま〴〵に風評(ふうへう)なすが故。京都(みやこ)に縁者(えんじや)又は
知己(しるべ)ある人々(ひと〳〵)は。日夜(にちや)安心(あんしん)をなさゞるよしを聞(きゝ)り
因(よつ)てそのあらましを記(しる)し猶(なほ)遠境(ゑんきやう)の人をして
易(やす)からしめん事(こと)を願(ねが)ふのみ
現代語訳
大きな瓦が落ちることも多かった。そのため人々の心は何となく恐怖が止まず、日夜安らかな気持ちになることもなく、ただ安全であることだけを願っていた。もともと平和な御代であることから、特に公(朝廷)においても諸社・諸山に御祈祷を命じられたとのことである。そのため七月の末頃には、やや地震の回数も減り、今や八月初旬には一昼夜にわずか五、六回となったのは、まことに有り難い聖代であると万民こぞって喜びをなしている。恐れ多いことである。
この一冊は、少しも世間の娯楽のために記すのではない。遠国・辺境では様々に噂をするため、京都に縁者または知人のある人々は、日夜安心することができないということを聞いた。そのため、そのあらましを記し、さらに遠境の人々を安心させたいと願うのみである。
英語訳
Large roof tiles frequently fell as well. Because of this, people's hearts were filled with an endless fear, and day and night they could find no peace of mind, praying only for safety. Since this was originally a peaceful imperial reign, the court especially ordered prayers at various shrines and temples. As a result, by the end of July, the frequency of earthquakes had somewhat decreased, and now in early August, there were only five or six tremors in a day and night, which was truly a blessing of this sacred age that all the people celebrated together. How awe-inspiring this is.
This volume is not written for the entertainment of the world at all. Since various rumors spread in distant provinces and remote regions, people who have relatives or acquaintances in Kyoto cannot rest easy day or night, I have heard. Therefore, I record this summary with the sole wish to bring peace of mind to people in distant regions.