みんなで翻刻ver1

コレクション: STAGE9

永代惨話 文化の夢 全 - 翻刻

永代惨話 文化の夢 全 - ページ 47

ページ: 47

翻刻

りしが、漸々(やう〳〵)と橋杭(はしぐひ)につかまり居(ゐ)たりしを、下(した)より同家中(どうかちう)な る某の妻流(つまなが)れ来(きた)りて足(あし)に取(と)りつき、助(たす)けてたべといひけるに、 仲間(ちうげん)は心強(こゝろづよ)くも、貴婦(あなた)を助(たす)けると私(わし)が命(いのち)も危(あやふ)しとて、取縋(とりすが)る 手(て)を振(ふ)り払(はら)へば、哀(あは)れむべし、その女中(ぢよちう)は再(ふたゝ)び水底(みなそこ)に沈(しづ)みけ るが、其時幸(そのときさいわ)ひ助(たす)け舟来(ぶねきた)りけるに、仲間(ちうげん)の者(もの)は打乗(うちの)りて己(おの)が 主家(しゆうか)へ帰(かへ)り来(きた)りしが、其夜(そのよ)より大熱(だいねつ)の大病(たいびやう)にて、妾(わらは)は某(たれ)の為(た) めに殺(ころ)されたりと、仲間(ちうげん)の名(な)を呼(よ)びて終夜眠(しふやねむ)らざりしと(右 二話西川某の記録)   ○張(はり)ぬきの魚水中(いをすいちう)に泳(をよ)ぐ 何町(なにちやう)より出(いだ)したる練物(ねりもの)にや、龍神囃(りうじんばやし)にて笠枠(かさわく)の上(うへ)に鰹(かつほ)の杖(つ) きたるを冠(かむ)りたる者(もの)も水中(すいちう)に落入(をちい)りしが、素(もと)より此如(このごど)き催(もよふ) しに列(つら)なるゆゑ腕(うで)に覚(おぼ)えやありけん其侭水(そのまゝみづ)を泳(およ)ぎ岸(きし)の方(かた) へ上(のぼ)りたりしと、かゝる時(とき)ならざらんには鰹(かつほ)の水(みづ)を泳(をよ)ぐや うにて嘸(さぞ)一|興(きやう)にもなりしことならめと、見(み)し人(ひと)の語(かた)りしま ゝを記(しる)す(文實亭の記録)   ○怨霊枕頭(ゑんれいちんとう)に現(あら)はる 芝(しば)の近所(きんじよ)に住(す)める或男此日橋(あるおとここのひはし)より落(をち)ながら高欄(らんかん)のなだれ たるに取付(とりつ)き未(いま)だ水(みづ)には落(をち)ずしてありける中(うち)、一人(ひとり)の女人(ふじん) 児(こ)を抱(いだ)きたるが、落(をち)かゝり来(き)て袂(たもと)にすがり、アレ助(たす)けてたべ といひけるを、我身(わかみ)も危(あや)ふきゆゑ聞(きゝ)き入(い)れずして心猛(こゝろつよ)くも 振離(ふりはな)ちしかば、親子(おやこ)は其侭沈(そのまゝしづ)みたりしが、其夜彼(そのよか)の男(おとこ)が枕(まくら)の 頭(ほとり)に、児(こ)を抱(いだ)きたる婦人(ふじん)の姿有(すがたあ)るかと思(おも)へば無(な)きが如(ごと)く、消(き) えしかと思(おも)へば立現(たちあら)はれ、恨(うら)めしそうなる顔色(がんしよく)して、此方(こなた)を 見(み)る目(め)のいとも凄(すさ)まじきに、彼(か)の男(おとこ)は恐怖(きようふ)して遂(つい)に大病(たいびやう)を