翻刻
る事(こと)十八九|丈(じょう)流々斜々(りゅう〳〵しゃ〳〵)奇中(きちゅう)に幽諏(いうしゆ)を具(そな)へ
て清観雅人(せいくわんがじん)の腸(はらわた)を悩(なやま)す嗚呼(あゝ)大輔(たいう)の別業(べつけふ)や
臥(ふ)しては泉石(せんせき)に枕(まくら)し坐(ざ)しては瀑布(ばくふ)を望(のぞ)み
夏(なつ)は満川(まんせん)の清風(せいふ)に三伏(さんふく)の熱(ねつ)を消(せう)し秋(あき)は前(ぜん)
山(ざん)の紅葉(かうよふ)に三秋(さんしう)の愁(うれひ)を忘(わす)る不老長生(ふろうちょうせい)の術(じつ)
座(ゐ)なからにして得(ゑ)たり何(なん)そ必(かならす)しも仙道(せんどう)を
学(まな)はん又此(またこの)部内(ふなへ)須巻(すまき)と云(い)へる所(ところ)に温泉場(おんせんば)
あり径路(こみち)を登(のほ)る事(こと)八|町(ちょう)許(ばか)り湯守(ゆもり)は根本氏(ねもとうじ)
二階造(にかいつくり)の樓(ろう)を構(かま)へて可(か)なり手廣(てひろく)く酒食共(さけめしとも)
に客(きやく)の望(のぞ)みに応(おう)ず中(なか)にも名物(めいぶつ)の団子(だんこ)あり
一盆二錢(ひとぼんにせん)下戸(げこ)も上戸(じょうこ)も争(あらそひ)て之(これ)を喰(くら)ふ浴槽(ゆふね)
は樓(ろう)に接(せつ)して二坪(ふたつぼ)同質(どうしつ)の温液(おんゑき)なり一|坪(つぼ)に
六筋(むすじ)の瀧(たき)を懸(か)く故(ゆゑ)に瀧(たき)の湯(ゆ)と称(しょう)す之(これ)に浴(よく)
して腰(こし)を叩(たゝ)かせ頭(あたま)を打(うた)せて上症(のぼせ)を引(ひき)さげ
更(さら)に樓(ろう)に登(のぼ)てり一酌(いつしゃく)し酔(まひ)に乗(じょう)して午枕(まくら)を
呼(よ)ふなと真(まこと)に人間(にんげん)の小極楽(せうごくらく)