翻刻
大和屋(やまとや)。伊勢屋(いせや)。佐野屋(さのや)。井桁屋(いけたや)。紙屋(かみや)。の五戸(ごこ)也(なり)
家屋(かおく)の構(かま)へは福渡戸(ふくわた)に及(およ)はざれとも皆(みな)二
階(かい)造(つく)りにして相応(さうをう)に出来(でき)たる普請(ふしん)も見(み)ゆ
地形(ちけい)は一層(いつそう)低(ひく)く後(うしろ)に丘(をか)を負(おほ)ひ前(まへ)に川流(せんりう)を
抱(いだ)く川(かは)の北岸(ほくがん)は灣形(わんけい)の河原(かはら)にて其中(そのうち)に廣(くあう)
大(たい)なる土工(どこう)あり東西(たうざい)五六十|間(けん)|南北(なんほく)七八九
間(けん)|方形(はうけい)に高(たか)く石垣(いしかき)を築揚(つきあけ)たり是(これ)|栃木縣令(とちきけんれい)
樺山君(かばやまくん)が別荘(べつさう)の敷地(しきち)なりと云(い)ふ此地内(このちなへ)の
西寄(にしより)に泉池(せんち)あり其水(そのみつ)は渓流(けいりう)南(みなみ)より石垣(いしかき)の
底(そこ)を貫(つらぬ)きて池(いけ)に注(そゝ)き更(さら)に貫(つらぬ)きて北(きた)に流(なか)る
又(また)泉地(せんち)の傍(かたはら)に温液(おんえき)あり元河原湯(もとかはらのゆ)と称(しやう)する
もの是(これ)なり是(これ)より右手(めて)に方(あた)り南(みなみ)の出崎(てさき)に
新(あたら)しく見(み)ゆる二層樓(にそうろう)は宮内大輔(くなへたいう)|吉井君(よしゐくん)の
別業(べつけふ)なり川(かは)を隔(へた)てゝ南崖(なんがい)に懸(か〱)れる瀑布(ばくふ)を
吉井瀧(よしゐたき)と云(い)ふ盖(けた)し|大輔(たいう)の別業(べつけふ)に因(より)て名附(なつけ)
たるならん此瀧(このたき)は屈曲(くつきよく)たる岩面(がんめん)を奔流(ほんりう)す