翻刻
角を露さざるべからざる所以識者を俟たずして明かなりと謂ふべし
輓今科学の進歩は駸々として底止する所なく百般の研究微に入り細
を究め其の応用の頭域日に広汎を加へ殆ど鬼神を駆使して雷霆を慴
服せしむるの概あり而も地震の学に至ては観測の機必ずしも備はら
ざるに非ず学者の努力敢て他に一籌を輸すといふべからざるも其の
進歩の遅々として未だ抜本塞源の真理に徹底せず惨害を予知して世
人を警醒するの道に於ては尚ほ五里霧中に彷徨して適従する所なき
の歎声を聞くのみ是れ果して誰の罪ぞ豈に昭代の一大恨事に非ずや
為政者須らく達識遠慮深く心を斯学の進歩に致し学者を激励保護し
て大に其の研究の利便を聞き世人亦幾多の資料を提出して之を援け
学者をして其の蘊蓄を傾け全能を発揮して前人未発の真理を闡明せ
しめ以で其の目的を達成せしむべく、是れ我国の最急務にして啻に
科学の発達に貢献するのみならず惨害を防止して民人の福祉を増進
すること実に鮮少ならざるべきを信ず、
土佐史談会は郷土史研究の立場より切に此の感を深うす、今次著者
の一諾を得て此の書を刊行し前車の轍となりて聊か学界に貢献せん
とす、読者希くば本会の微吏を諒とせられなば其の幸何物か之に若
かん由て一言を巻首に弁ずと云爾
大正二年十月関東大震災後四旬
土佐史談会