翻刻
疑なしを見て死體尋んと彼焼あとへ参り心積の坐敷
を尋るに小刀の焼身一本を得たり是ハかの僕にあつけおき
たる也またあたりを探るに家紋付たる縁頭焼残りあれは
疑なしとよく〳〵探れハ焦骨を得たりまた預け置ける百文銭
七枚そのまゝにありかの僕の非業を憐れむといへとも四人の若
人恙なきを悦ひ片時も面白なるへきにあらすと夕暮に善
光寺を出帰路に彼牟礼駅へかゝるにこたひハ横死の者を
こゝかしこに焼立る火夥しく闇夜さなからま昼のことし
そのいたましさたとへんにものなし急きにいそき翌廿八日かの
おのこ先たちて帰村し恙なきよしを語れハ四人のものも
程なく参り一家こそつて蘇生の人に逢うふる事を賀す
此物語りハ潟町ゟ善光寺へ行たるおのこハ寺嶋六兵衛方へ
出入しものにてかの者登ての物語りのよし寺嶋氏ゟ事の
まゝをしるしぬ
信州八幡社家の列家へ当藩中藤林梅仙二男参り医業を始む
今度の変に同夜同刻読書していまた寝すはかりと音して家宅
ひた潰れ一歩も出る間なし何たる事を弁へす茫然たりしはらく
して人音あり助けくれよと喚れハ来りて穿ち出しぬこゝに始て
地震なる事を悟りぬ此時はや寅の刻なりけり妻子不残打
砕かれて微塵になりぬその内義子一人助命す日を経て当所