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コレクション: STAGE6

火の元用心肝要之事・諸人安全心得の事 - 翻刻

火の元用心肝要之事・諸人安全心得の事 - ページ 1

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火(ひ)の元用心肝要之事(もとようしんかんようのこと) 一から風 吹来(ふききた)り候共 猥(みだり)に騒立迯去(さわぎたちにげさる)べからざる事   いまだ事もわからざるにみだりに立さわぎ候はばそれより近所(きんじよ)もさわぎ立て申それ   よりそれと迯走(にげはし)り候時は次第(しだい)にさうどう大(たい)へんになり往来(わうらい)こんざつして人に人かさ   なり終(つひ)には親(おや)をふみこえ子(こ)をすてゝたがひに怪我(けが)しけがさせてせいしがたくかまどの火は   たくまゝにすて置(おき)にげさり候はゞ 所〻(ところ〴〵)より出火(しゆつくわ)し行(ゆく)さき〴〵火となり誰(たれ)あつてけすものな   ければ前後(あとさき)火にはさまり遠退(ゑんたい)ならずみな死亡(しばう)におよぶべしこれ一人のふりやうけんゟ   大勢(おほぜい)のなんぎとなるたとひそこはのがるゝとも其罪(そのつみ)身にむくい子孫(しそん)まで天ばつある   べしつゝしんで守(まも)るべし 一武家方御通行之節(ぶけがたおんとほりのせつ)麁略(そりやく)に不致邪魔(いたさずじやま)に不相成(あいならず)候様 石瓦等(いしかはらとう)  すべて高低(たかひく)つまづき候もの片付往来冝様可致(かたづけわうらいよきやういたすべき)事   人馬往来(にんばわうらい)はたらき冝様(よろしきやう)心つけ可申候 且市中(かつしちう)の下民非力(かみんひりき)の者共事(ものともこと)になれざるものは   其場所(そのばしよ)に出行(いでゆき)候ても邪魔(じやま)のみなるべく間 其場(そのば)には行(ゆく)べからず只市中(ただしちう)のものは市中(しちう)に有(あつ)て   その町々居(ちやう〳〵ゐ)る所を守(まも)り出火之無之様(しゆつくわこれなきやう)にいたしめい〳〵 門口(かどぐち)に水桶(みづをけ)出(いだ)し置(おき)鎮火(ひをしつむる)の用心(ようじん)に   いたし又 御同勢(ごどうぜい)の渇(かつ)を助(たす)けくつわらんぢのしめしになるやう万事(ばんじ)御ためになるを   心がけべし 一 町内火用心大切(ちやうないひのようじんたいせつ)に守(まも)り是迄(これまで)の御趣意之通風立(ごしゆいのとほりかぜたち)候節は  一同火事装束(いちどうくわじしやうぞく)にて手かぎ六尺 棒持参(ぼうぢさん)し番〻(ばん〴〵)可致事   軒別(けんべつ)に順番(じゅゆんばん)たて世話人(せわにん)さしづ次第店(しだひたな)ばん所又は木戸(きど)ぎはに五人七人手わけし相(あひ)   たがひに番(ばん)し出火(しゆつくわ)はもちろん万〻一(まん〳〵いち)らうぜき乱(らん)ばう人有之候はゞたれかれの家(いへ)と見合(みあはせ)なく   ひやうし木(ぎ)うちみな〳〵より合(あひ)取(とり)しづめ可申 相(あい)たがひに助(たす)けかんにん致し合たれが手がらと   申を論(ろん)ぜず早(はや)くをさまり候をことかんじんに一同(いちどう)のために相(あひ)なる事 出情(しゆつせい)いたし申べし 一 取止(とりとめ)ざる雑節風聞(ざふせつふうぶん)すべからず幷に諸品手間賃(しよしなてまちん)猥(みだり)に高直(かうぢき)に  致べからず万事(ばんじ)正路(しやうろ)に致し実意(じつい)に助合(たすけあひ)可申事   取(とり)とめざる風聞(ふうぶん)いたし候へばせけんをさわがし人の気(き)をまどはし味方(みかた)の英気(えいき)をくじき   御国(みくに)の害(がい)に相成終(あいなりつひ)にはめい〳〵の難儀(なんぎ)となるとおもふべしみたりに諸色高直(しよしきかうじきに)致(いた)し候へば   しぜん味方(みかた)を手薄(てうす)くいたさせ手うすにして不利(ふり)なる時はともなんぎとなる財宝(ざいほう)の   徳(とく)は得(う)る共(とも)身(み)の損(そん)となるを考(かんが)へべし 一 御法令大切(おんふれたいせつ)に相守麁略(あいまもりそりやく)なく相慎(あいつゝしみ)町法急度(ちやうはうきつと)可守(まもるべき)事   組合仲間(くみあひなかま)何程宛(なにほどづゝ)と定(さだ)め其組(そのくみ)を守(まも)り猥(みだり)に他所(たしよ)へ越行(こえゆく)べからず他所(たしよ)こえ行間(ゆきま)ちがひけん   くわして内乱(ないらん)おこり可申もしれざれば無用(むよう)たるべししかし万〻一他所にても取(とり)しづめ   手に合(あい)かねなんぎと見受(みうけ)候はゞ 加勢(かせい)してすくひ可申 時宜(じき)見はからひたるべしすべて   町〻店〻(ちやう〳〵たな〳〵)うら表(おもて)とも長屋(ながや)ごとに廻(まは)り行事(ぎやうじ)たて順番(じゆんばん)に見廻(みまは)りたとひわが預(あづか)らず候事にて   も手落有(ておちあ)ると見受(みうけ)候事は相たがひに添心(そへしん)いたし合(あひ)とて世(よ)のために相成候様心づけ格(かく)   別(べつ)の日(ひ)は路次口(ろじぐち)しめおき替(かはり)ばんに守(まも)り出入(でいり)あらため火(ひ)の元(もと)大切(たいせつ)にまもればあや   まちなかるべし     諸人安全心得(しよにんあんぜんこゝろえ)の事 遠(とほ)きおもんぱかりなきときは必近(かならずちか)き患(うれへ)ありとされば人 安(やす)きに在(あり)といへ共 危(あやふき)を忘(わす)れず 常(つね)に用心(ようじん)すれば不時(ふじ)に変(へん)ありても敢(あへ)てうろたへ騒(さわ)ぐ事 少(すくな)しこれ平生(へいぜい)の心懸(こゝろがけ)に亭 是(これ)を用心といふ也 蓋(けだ)し我(わ)が御国(みくに)日本は神国(しんこく)と申 昔(むかし)より武勇(ぶゆう)たけ〳〵 正直(しやうじき)を専(もつは)らとし 義理正(ぎりたゞ)しき御国なり故(ゆえ)に今にいたり人気(にんき)つよく忠信(ちうしん)にして約束(やくそく)をたがへず恩義(をんぎ)のた めには身命(しんめい)ををしまず恥(はぢ)をいやしみ名(な)ををしみつよきをくじきよわきを助(たす)くる男気(をとこぎ) なるを大和魂(やまとたましひ)といふていさぎよき国風(こくふう)也 故(ゆゑ)に小国といへども大国におそれずむかし より仮(かり)にも外国(ぐわいこく)の制(せい)を受(うけ)し事なし殊更(ことさら)金銀銅鉄(きん〴〵どうてつ)五穀(ごこく)絹布(けんふ)其外 足(た)らざる 物(もの)なし実(じつ)にめでたき御国(みくに)也 因(よつ)て所々外国(しよ〳〵くわいこく)より通信交易(つうしんかうえき)をねがふ事 度〻(どゝ)なれども 昔(むかし)より曾(かつ)てゆるしたまはず是(これ)は御国(みくに)を固(かた)ふし国の宝(たから)をそんせず国民(くにたみ)をゆたかに くらさせ玉はんとの御 良策(はからひ)也 爰(こゝ)に近頃(ちかごろ)異国(いこく)ぶね渡来(とらい)し強(しひ)て交易(かうえき)をねがはん と数(す)そう来て御国をさわがし御 聞済(きゝすみ)なき時はもしや寇(あた)せんもしれがたしと御(ご) 防禦御用意(ばうぎよごようい)あり是御用心(これごようじん)の御 為(ため)也彼(かの)の異船帰(いせんかへ)りて後世(のちよ)の中(なか)さま〴〵の事 風聞(ふうぶん)し 弁(わきま)へしらぬ者(もの)ども取(とり)とめざる雑説(ざふせつ)せるゆゑ是に怖(ちぢ)たる女わらべ何(なに)となく朝夕(あさゆふ)あんじまどふ ておそるゝ 様子(やうす)なれども必(かならず)うろたへてんどうすることなれよく〳〵 物(もの)を考(かんが)へ見べしたとひ異国(いこく) よりおしよせ来(きた)る共 遠(とほ)き海(うみ)を隔(へだて)て来れば其数大(そのかずたい)がいたるもの也又 大船(たいせん)といへども人 ばかりにてはなしそれ〳〵 諸品(しな〴〵)もつみ合(あ)へば人数のほども多(おほ)からじ日本は居(ゐ)ながらにして《ルビ:追〻|おひ〳〵》に 加勢(かせい)あり元よりつよき武勇(ぶゆう)の御国 常(つね)に食物(くひもの)よきゆゑに力(ちから)ありてはしこし其上此度(そのうへこのたび)所〻 御(ご)えうがい御ふせぎ御場所(ごばしよ)相立(あいたち)御用意(ごようい)もとゝのひ御れき〳〵 方(がた)御 出張(でばり)御 固(かため)の御 手筈(てはず)も 定(さだま)り大丈夫(だいぢやうぶ)になりしうへもはや各安心(おの〳〵あんしん)に候万〻一ことありとも猥(みだり)にありて騒(さわ)くべからず 只市中(ただしちう)のものは其所にゐてめい〳〵の家(いへ)を守(まも)り火の用心第一(ようしんだいいち)にして自分(じぶん)よりさうどうの できぬやう致す事 肝要(かんえう)也なか〳〵 異賊上陸(いぞくじやうりく)をする事はあらじ只 船中(せんちう)に在(あつ)ておび やかす事あらんかよし夫迚(それとて)も此方(このはう)にてさわがず一同一致(いちどういつち)し只(ただ)火の元(もと)を大切(たいせつ)にし早(はや)く消(け)し 防(ふせ)ぐを第一(だいいち)とすれば味方(みかた)はあんたい也もし心得(こゝろゑ)ちがひしありていまだ様子(やうす)もわからぬうち みだりにおそれさわぎ立自分(たちじぶん)さうどうし人さきに迯(にげ)んとすればまた人もさわぎたち いたづらにこんざつすべし其虚(そのさま)にばぎれてどんな愚者(ばかもの)らんばうをしいだしさわがすもしれ ず夫よりして所〻ゟ出火し消(け)す人もなく大さうどうとならば相たかひに難儀(なんぎ)とよく〳〵 此所を考(かんが)へ心をしづめ用心して火の元に気(き)つくれば外(ほか)におそるゝ事はあらじ異賊(いぞく)より 恐(おそ)るゝものは是(これ)なり因之前条(これによつてぜんでう)の通(とほり)にして相たがひに気(き)を付合(つけあひ)ともに用心すべし右心得(みぎこゝろえ) のため申入る也よく是(これ)を見(み)て此事を守(まも)らば実(じつ)に恐(おそ)るゝことはあるまじ此儀幸(このぎさいはひ)に聞入(きゝいれ)御 同意(とうい)にあらばこん意(い)の人〻(ひと〴〵)さき〴〵まで申 伝(つた)へてともに安泰(あんたい)に致度(いたしたき)もの也 家内近所(かないきんじよ) 店〻共一致(たな〴〵ともいつち)して用心(ようじん)すれば万民太平(ばんみんたいへい)うたがひなかるべし   ひのもとを大事(だいじ)にまもるものならばけしておそるゝから風は何に 右之条〻 堅相守(かたくあひまもり)致 丹精(たんせい)候事 銘〻後栄(めい〳〵のちさかゆる)のためと心得(こゝろえ)身(み)に引請(ひきうけ)人〻 一和(いちわ)して勤安(つとめあん) 全(ぜん)をねがふべし是(これ)近来(ちかごろ)鎮火御趣意(ひけしごしゆい)の御法(ごはう)のごとく其元(そのもと)しづまり候へば風下(かぜしも)の家〻(いへ〳〵) 片付迯去(かたづけにげさ)らずともよきがごとくさわがず其所に居(ゐ)て内を守(まも)るときは安泰(あんたい)に候此段 心得相(こゝろえあひ)たがひにたすけ合一致(あひいつち)して納(をさま)る事 大切(たいせつ)也 天下(てんか)の安泰(あんたい)は則(すなはち)めい〳〵の安全(あんぜん)と 存(ぞん)じ出情(しゆつせい)し可勤事(つとむべきこと)也もしゐはいして守らざるは是(これ)めうりにあらず後(のち)かならず 神仏(しんぶつ)の御罰(ごばつ)あらんとつゝしみ是を守り玉はゞともに安全たるべし 凡世(およそよ)の中(なか)に水火(すゐくわ)の災程(わざはひほど)おそろしきものなし此書(このしよ)は深切(しんせつ)なる人の 施板(せはん)にて女童(をんなわらべ)にも訳(わか)りやすきやうに諭(さと)せし書(しよ)なり其志(そのこゝろざし)のまめや かなるを感(かん)じ一人も多(おほ)く熟覧(じゆくらん)し家〻(いへ〳〵)壁書(へきしよ)にもせん事を願(ねが)ひ 梓(あづさ)に寿きし再施印(さいせいん)しておなじこゝろざしを続(つ)ぐ事(こと)しかり                            《箱:禁売買》