翻刻
大地震見聞録叙幾多(いくた)の惨字(さんじ)を並(なら)ぶるとも其(そ)の実況(じつきやう)の十分(ぶ)一にだも及(およ)ばざるものは濃尾越(のうびゑつ)の大地震(おうぢしん)なり余(よ)は親(した)しく震災各地(しんさいかくち)を巡回(じゆんくわい)し見聞(けんぶん)に係(かゝ)る事実(じゞつ)は日々|我(わ)が国会新聞社(こくゝわいしんぶんしや)へ通信せしか文拙(ぶんつたな)く筆鈍(ふでにぶ)くして隔靴掻痒(かくゝわさうやう)の憾(うらみ)ありき社友秋風道人此頃余(しやいうしうふうだうじんこのころよ)の通信(つうしん)と各新聞紙(かくしんぶんし)の記事(きじ)とを参(さ)酌(しやく)して大地震見聞録(おほぢしんけんもんろく)を編纂(へんさん)し来(きた)りて余(よ)に閲(えつ)を求(もと)め且告(かつゝげ)て曰(いは)く本書発兌(ほんしょはつだ)の目的(もくてき)たる射利(しやり)に非(あら)ずして其買得(そのばいとく)は罹災者救恤(りさいしやきうじゆつ)の資(し)に充(あて)んとするに在(あ)りと余其挙(よそのきよ)を賛(さん)し二三|文字(もんじ)の妥(すゐ)当(たう)ならざるを正(たゞ)して之(これ)を道人(だうじん)に授(さづ)く看容幸(かんかくさいは)ひに文字(もんじ)の拙(つたな)きを捨(すて)て記事(きじ)の真率(しんりつ)なるを取(と)り給(たま)はゞ可(か)なり乃(すなは)ち其顛末(そのてんまつ)を書(しよ)して叙言(じよげん)に代(か)ふ
辛卯十一月二十日 左 文 識