翻刻
春(はる)の曙(あけぼの)。夏(なつ)の晝(ひる)。秋(あき)の夕暮(ゆふぐれ)。冬(ふゆ)の夜(よ)と。諸君(しょくん)|保養(ほやう)のそが
中(なか)に。奈良屋(ならや)兵次(ひやうじ)が三日月の瀧(いたき)は。柳(やなぎ)の糸(いと)の千(ち)すぢを
□に旅。間毎(まごと)に吹入(ふきいる)|涼風(すずかぜ)は。心(こゝろ)の塵(ちり)だにも拂ふ。福住九蔵(ふくずみくぞう)が
楼上(ろうしやう)に有て音曲(おんぎよく)の宴(えん)。時(とき)をきらはずして宝(たから)をちらし。黄金(こがね)
の花(はな)。銀(しろかね)の雪(ゆき)尚(なほ)添(そへ)て。奇(き)とやいはん妙(めう)とやいはん。塔(たふ)の澤(さは)の
元湯(もとゆ)|湯女(ゆな)の返事(へんじ)と共(とも)に引(ひき)ずる。裾川(すそかは)の河鹿(かしか)声(こゑ)もやさしく。
囲(かこひ)の物(もの)好(ずき)おどろくに物(もの)なく。庭(にハ)の風(ふう)流(りう)筆(ふで)又(また)及(およ)ばん。堂(だう)が島(しま)に
行(ゆき)てハ帰?(き)庭(てい)をわすれ。底倉(そこくら)の酒盛(さかもり)底(そこ)をぬらし。木賀(きが)の土橋(どばし)
に山水(さんすい)を覗(のぞ)む。芦の湯の清きには。目に諸(もろ〳〵)の病(やまひ)を治(ぢ)し。口(くち)に諸(もろ〳〵)の
嘉肴(かかう)を味(あぢは)ひ。瘡毒(さうどく)を拂(はらひ)。疾氣(しつけ)を去(さる)。一廻(ひとまは)りをも二廻(ふたまは)り程(ほど)。命(いのち)を
延(のば)す出湯(いでゆ)の効能(こうのう)。アゝ草津も遠(とほ)く及(およ)ばざらんや
湯本之部(ゆもとのぶ) 小田原ゟ一里半五丁
温泉(おんせん)功能(こうのう)
一|脚氣(かつけ) 一すぢけ一|骨痛(ほねいたみ) 一|痔疾(ぢしつ) 一|瘡毒(そうどく)
一たむし一水むし一なまづ一|疝氣(せんき) 一|腰痛(こしいたみ)
一しびれ一|切疵(きりきず) 一|灸崩(きうくづれ) 一|中風(ちうぶ) 一|打身(うちみ)
一|冷症(ひえしやう) 一くぢき
一湯|宿(やど)|福住九蔵が家(いへ)の上框?の額(がく)は宗一が筆(ふで)にて正面(しやうめん)にかけたり
其|写(うつし)|記(しる)す 此外|所蔵(しよぞう)の古画(こぐわ)|古器(こき)あまた有よし
【ここより図内の文字】
湯
泉
亭
春あきの住か
なりけれ
あつからす
ひやゝかなる事
いつる湯のをとは
□事蕃?宗弌 印:宗弌 印:三昧
【図ここまで、このさき図の下】
一《割書:湯宿| 》福住九蔵 一《割書:同| 》小川万右衛門
但 福住小川の両家(りやうけ)の外は小宿と唱(となへ)|療治(りやうぢ)皆々(みな〳〵)
惣湯といふに浴するなり福住小川の二家(け)を
内湯あり且此辺小田原へ近(ちか)く別(べつし)る便(べん)利
自由自在(じゆうじざい)種々(しゆ〴〵)風雅(ふうが)のたのしみあり