翻刻
一 此節之地震実ニ開闢以来之大変災二而江戸
市中之焼亡圧死焼死前ニ記する如く武家
町家共二一旦寥〻たりしか暮ゟ翌年之春二
至而諸普請夥敷諸国之工匠入込侯家大商
之金銭市中二散する事幾百万と言数ヲしらす且
吉原之五町まち焼死圧死尤多く兎而も此上
元之如く立帰る事覚束なし抔人〻申あへし候
娼家共所〻二仮宅ヲ構へ件之工商共入込て其
繁栄他日二倍セリ吉凶禍福実二糾索之如く
人世之変智人智の計りしるへき所にあらす
後年の為に記し置
安政二年四月二日 淑明記
一或小石川御役家之者物語二右地震之前俄二諸方明るく相成候二付出火 二候哉と存候所左二も
あらすまもなく大地震ゆり出したり追而是ヲ尋る二浦賀辺之漁師共此夜漁事二
船二而乗出し三里程行たらんと思ふ頃大成妖火飛行せり其さま譬る二物
なし
漁師共驚キ家二帰らんとして凡壱里半程乗返したらんと思ふ時件之
地震ゆり出したる二水上二而ハ左迄之事共不覚家二帰たれハ家居不残
潰れ家内之者共もちり〳〵二成行方知れさりしと云又或説二地震二先立雪降
俄二光ヲ発し電光之激する如くなりしと云又音羽町辺之産婆産家二
行途中件之妖火飛行するヲ見て悶絶せしと云りける大変事ある時は
如キ是事もある事二や 此一説随聞安政四年正月予記ㇲ