翻刻
氷雪(ひやうせつ)の溶解(ようかい)せるもの、常(つね)に相混(あひこん)ずるが故(ゆゑ)に、洋水(やうすい)
の鹹味(かんび)愈(いよ〳〵)陸(りく)に近(ちか)ければ愈(いよ〳〵)薄(うす)し、また洋水(やうすい)は尋常(じんじやう)
塩(えん)の外(ほか)に更(さら)に、海(かい)塩酸(えんさん)硫酸(りうさん)、マグ子シヤ、硫酸(りうさん)カル
キの如き物質(ぶつしつ)を含(ふく)めり、此等のもの能(よ)く洋水(やうすい)を
して鹹苦(かんく)ならしむ、
洋水(やうすい)の温度(おんど)
洋水(やうすい)外面(くわいめん)の温度(おんど)は、赤道(せきどう)両辺(りやうへん)十|度(ど)余(よ)の地に在て、
大約(たいやく)寒暑(かんしょ)針(しん)八十度あり、二至線(じしせん)に於て七十五度、
緯度(ゐど)六十度に於ては五十度、南北(なんぼく)二大洋(にだいやう)に在て
は氷点(ひやうてん)に下(くだ)り、或(あるひ)は猶(なほ)これより下(くだ)る事あり、
洋水(やうすい)乃|深浅(しんせん)、
洋水(やうすい)の深浅(しんせん)未(いま)だ確定(かくてい)あらずといへども、大約(たいやく)地(ち)
球上(きうしやう)至高山(しこうさん)の則(そく)に同(おな)じかるべき事と察(さつ)せられ
たり、嶮岸(けんがん)の近傍(きんはう)は、海底(かいてい)必(かな)らず俄(には)かに下(くだ)つて、且(かつ)
深(ふか)く、岸嶮(きしけん)ならざれば、近海(きんかい)の底(そこ)漸(やうや)くに下(くだ)つて、且(かつ)
浅(あさ)きを以てなり、○大西洋(たいせいやう)に於て測量(そくりやう)最(もつと)も深(ふか)き
に至(いた)れる事(こと)あり、即(すなは)ち一千八百五十二年第四月、
南緯(なんゐ)三十六度、西経(せいけい)四十四度十一|分(ぶん)の海上(かいしやう)にて、