翻刻
潮(しほ)の長(ちよう)ずるあり、また朔望(さくぼう)の日(ひ)は日月(じつげつ)天(てん)の同度(どうど)
にあつて、力(ちから)を併(あは)せて洋水(やうすい)を引動(いんどう)す、故(ゆえ)に潮(しほ)の長(ちよう)
ずる最(もつと)も高(たか)し、之を大潮(だいてう)と云ふ、上弦(じやうげん)下弦(げゝん)に於て、
月(つき)は日(ひ)と九十度の角(かく)あり、日月(じつげつ)の引力(いんりよく)相(あい)離(はな)るゝ
事|最(もつと)も甚(はなは)だし、故(ゆゑ)に潮(しほ)の長(ちやう)ずる最(もつと)も低(ひく)し、之を小(しやう)
潮(てう)と云ふ、○潮(しほ)の長(ちよう)ずるや、只(たゞ)月(つき)の運行(うんかう)に由(よつ)て期(き)
あること、上(うへ)に述(のぶ)るが如くなるのみならず、洋水(やうすい)
の深浅(しんせん)、風力(ふうりよく)の強弱(きやうじやく)、陸地(りくち)の位置(いち)、両潮(りやうてう)相遇(あいあ)ふ等よ
り、所(ところ)に随(したが)ひて異同(いどう)あり、即(すなは)ち渺茫(びやうぼう)たる大洋(だいやう)に在
ては、潮(しほ)の上(のぼ)る事五尺に過(すぎ)ず、シントヘレナ島(しま)に
於ては最(もつと)も高(たか)き潮(しほ)といへども、三尺の上(うえ)に至(いた)ら
ず、またタヒチにては其|長落(ちようらく)認(みと)むべからざるに
至る、しかるに仏国の北部(ほくぶ)、シントマロにては、五
十尺の高(たか)きに上(のぼ)る、英国のブリストルにては、四
十尺まで長(ちやう)ずと云ふ、またホンヂー港(かう)にては七
十尺の高(たか)さに至(いた)る事ありといふ、また海(うみ)の陸地(りくち)
に挟(はさ)まれて、その海門(かいもん)の方向(はうかう)大洋(だいやう)潮水(うしほ)の流動(りうどう)す
る方向(はうかう)と相背(あひそむ)きたるものは、其|海潮(うしほ)の長落(ちようらく)ある