翻刻
漸(やうや)く数(す)百里乃|岩礁(がんせう)若(か)くは環形(くわんけう)の嶋(しま)を為(な)すに至(いた)
る、抑(そも〳〵)この微虫(びちやう)の、海水中(かいすいちう)に含(ふく)む所の圭土(けいど)を集(あつ)め
て、其|巣(す)を造(つく)るや、即(すなは)ち所謂(いわゆる)珊瑚(さんご)なるものにして、
其|状(かたち)樹幹(じゆかん)の枝(えた)を生(せう)ずるが如くにして、其|樹(き)漸く
相(あひ)重(かさな)つて岩礁となり、其|高(たか)さ洋水(やうすい)の面(めん)に至れば、
是(これ)より上に抽(ぬきん)づる事|能(あた)はず、只(たゞ)潮水(てうすい)低(た)る時(とき)少(すこ)し
く乾燥(かんそう)する程(ほど)の高(たか)さにして、虫は其|建築(けんちく)の業(わざ)を
停(とゞ)む、然(しか)るに日熱(にちねつ)は其|乾燥(かんそう)せる時に当(あた)つて、之を
砕波(さいは)し、波浪(なみ)は珊瑚(さんご)の枝条を折(をつ)て、これを其礁の
上に揚(あ)げて、大潮の時と雖(いへど)も没入(ほつにう)すべからざる
高さと為る、然る時|隔絶(かくぜつ)せる諸国(しよこく)より、浮木(ふぼく)海草(かいさう)
流れ集りて、礁上漸く土を生(せう)じ、また草木(さうもく)の種子(たね)
波浪に由(よつ)て漂着(ひやうちやく)して、草木之に生長(せいてう)し、海島(かいてう)之に
巣を結(むす)び終(つい)に人の之を領(りやう)するに至るものなり
暗洲(あんしう)及び暗礁(あんせう)、
洋水(やうすい)の底(そこ)より起(おこ)れる山嶽(さんがく)の頂(いたゞ)、高(たか)く水面に抽づ
る事能はずして、常(つね)に潮水(てうすい)に淹没(えんぼつ)して、全(まつた)く嶋の
名を命じ難きものあり、其平坦にして且広きも