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上人かのわらはにむかひ給ひ手。君はいかなる人
にてましますやと。とはせ給へば。かのわらは。に
つことわらひ。われは是五 台(だい)山(さん)の文殊(もんじゆ)なりとて。
相好(さうがう)をあらはし。虚空(こくう)にとびさり給へば。藤(ふぢ)の
ころもは。瓔珞(やうらく)と変(へん)じ。雲上(うんしやう)に童子(どうじ)のかたち
を現(げん)じ。天人 蓋(がい)をさしかけ。ゆきがたしらずな
り給ふ。和尚(くはしやう)ありかたくおぼしめし。持念(ぢねん)まし
〳〵て。大聖(しやう)の御心まして。わが行徳(ぎやうとく)を感応(かんおう)あ
つて。あらはれ出ませ給ふことよと、たのもしく
おぼしめしけり。もろこしにまし〳〵ける時もかゝ
るふしぎともおほかりけるとぞ。さて在唐(さいたう)の
【霊山に参り給ふ事付直に如来をおがみたまふ事】
うち。つねに御心にかけられけるは。ねがはくは霊(りやう)
山(ぜん)にのぼりて如来(によらい)の御すがたをおかみ。たてま
つらんことをおぼしめしたまひ。朝なゆふな。諸(しよ)
仏(ぶつ)にいのりおはします。あるときいづくともなく
神童(しんとう)一人とび来る。其すがた。はなはだあやしく。
よのつねの人にはあらず。霊異(れいゐ)ありて。よく人
の思ふ所をしれり。和尚(くはしやう)にむかひて霊鷲(りやうじゆ)山(せん)に
まいり給へといふ。和尚のたまひけるはわれつ
ねにこれをのぞむよくわがこゝろさしを知り給へ
り。しかれとも山河(さんか)はるかにさがしきみちにて。
ことに数万(すまん)里(り)の難所(なんじよ)を。へだてたるとうけた
現代語訳
上人がその童子に向かって「あなたはどのような方でいらっしゃいますか」とお尋ねになると、その童子はにっこりと笑い、「私は五台山の文殊菩薩である」と言って、美しい仏の姿を現し、虚空へと飛び去っていかれた。藤色の衣は瓔珞に変わり、雲の上に童子の姿を現し、天人が天蓋をさしかけて、行方知れずとなってしまわれた。和尚(弘法大師)はありがたくお思いになり、持念をますます深められて、「大聖文殊菩薩が私の修行の功徳に感応されて、お姿を現してくださったのだ」と、頼もしくお思いになった。中国におられる間も、このような不思議なことが多くあったということである。さて、唐に滞在中の
【霊山に参詣されたこと、ならびに直接如来を拝したこと】
間、いつも心にかけておられたのは、「願わくは霊鷲山に登って釈迦如来のお姿を拝したてまつりたい」ということをお思いになり、朝夕に諸仏に祈りをささげておられた。あるとき、どこからともなく神童が一人飛んできた。その姿は非常に神秘的で、世の常の人ではなく、霊験があって、よく人の思うところを知っていた。和尚に向かって「霊鷲山に参詣なさい」と言う。和尚がおっしゃったのは、「私は常にこれを望んでいる。よく私の心ざしを知ってくださった。しかしながら、山河ははるかに険しい道で、ことに数万里の難所を隔てていると聞いて
英語訳
When the master asked the child, "What manner of person are you?" the child smiled brightly and said, "I am Manjusri of Mount Wutai," then revealed his beautiful Buddhist form and flew away into the void. His wisteria-colored robes transformed into jeweled ornaments, and he appeared as a divine child above the clouds, with heavenly beings holding a canopy over him before disappearing without a trace. The monk (Kobo Daishi) felt deeply grateful and intensified his meditation practice, thinking reassuringly, "The Great Saint Manjusri has responded to my religious merit and has appeared before me." It is said that many such miraculous events occurred during his time in China. Now, during his stay in Tang China,
[On Visiting the Sacred Mountain and Directly Worshipping the Tathagata]
what constantly occupied his mind was the wish to "climb Mount Gridhrakuta and worship the form of the Tathagata Buddha." He prayed to all the buddhas morning and evening. One day, a divine child appeared from nowhere. His appearance was extremely mystical, not that of an ordinary person, possessing spiritual powers and able to know well what people were thinking. He said to the monk, "Please visit Mount Gridhrakuta." The monk replied, "I have always wished for this. You know well my aspiration. However, the mountains and rivers form a distant and treacherous path, and I have heard that it is separated by tens of thousands of ri of difficult terrain..."