翻刻
新吉原五丁町ハ地震鳴動するとひとしく娼家一同ゆり
潰れ火災〳〵として八方ゟ燃出し廓中一面の大火とな
るされは裏々の反橋を下ㇲに暇なく又たまさか下さ
んとするもの有ても反橋損して渡す事かなわす大門一
方の出口となるゆへ烟にまかれ火に焼れ家に潰され又幸
におしをまぬかれたるも家根をこほち壁を破りて助
け出ㇲの人なけれハ空しく火の燃来るを待つて焼死ㇲ
斯の如くなれは手負死人夥しく実に目も当られぬさま
也其中遊女死するもの八百三十一人客其外此処へ来りし
もの四百五十余人茶屋并廓中の諸商人芸人等凡千四百
余人惣〆死人弐千七百余人と云且土蔵ハ一ッも残らす只々
西河原の家少々残り又五拾間道の片側残らと云《割書:此焼死人|の数前に》
《割書:出せし書上と相違せるハ全く|表向二内実との差別ならんか》
牛込辺に一人の狐つき有けるか当十月二日口ばしりていふ
大変なるゆへ十八日迄帰り来らすといひさまとどめる
人振拂ひて一さんに駈出何方へか行しか翌二日の夜大
地震にて右の居宅震り潰れ近辺も潰れし家夥敷
横死怪我人有しとなり彼狐つき其後早速帰り
来らさるにより又もや大地震ならんかと此辺のう
わさ今にやます