翻刻
人(ひと)の道(みち)なり。人(ひと)の道(みち)とは
古哥(こか)に
道(みち)といふその名(な)にまよふことなかれ
あさゆふ己(おの)がなすわざとしれ
道(みち)の道(みち)とすべきは常(つね)の道(みち)にあらず。大道(たいどう)すたれて
仁義(じんぎ)起(おこ)ると。老子(らうし)はいひ。寝(ね)るも学問(がくもん)。起(をき)るも学問(がくもん)。
汝(なんぢ)が書物(しよもつ)の博覧(はくらん)を。学問(がくもん)と思(おも)ひし。我慢(がまん)のあたまを
たゝきし槌(つち)も学問(がくもん)。袋(ふくろ)も学問(かくもん)。天(てん)何(なに)をかいふや。四時(しいじ)
行(おこな)はれ百物(はくぶつ)なるも学問(がくもん)にて。道(みち)は近(ちか)きにある
ものを。然(しか)るに汝(なんぢ)遠(とを)きを求(もと)め。書物(しよもつ)の外(ほか)には
学問(がくもん)なきと思へる。愚盲(ぐもう)の学問(がくもん)こそ。一字(いちじ)一点(いちてん)
よめざるものにもおとるべし。或(ある)田舎(いなか)の親父(をやぢ)。京都(きやうと)へ
行(ゆき)て帰(かへ)り。我(わが)隣家(となり)の儒者(じゆしや)に申けるは。我(われ)はこのたび
京都(きやうと)にて。或(ある)学者(がくしや)に出合(であひ)て。有難(ありかた)き学問(がくもん)を致(いた)し
来(きた)れりとて。よろこびけるゆへ。儒者(じゆしや)心(こゝろ)におかしくて。
汝(なんぢ)はいろは字(じ)より読(よめ)ぬ男(をとこ)なるが。いかなるがくもんを