翻刻
がれたらんには。外(ほか)の襁褓(むつき)にて。小児(せうに)の腰(こし)より腹(はら)にひき
まはして。しつかりと巻(まき)。下衣(したぎ)の裳(すそ)を。かゝげておくべし。且(また)
予(かね)て襁褓(むつき)を。炬燵(こたつ)の被(ふとん)の上(うへ)。或(あるひ)は傍人(かんびやうにん)の懐(ふところ)に入(いれ)。温置(あたためおい)て
取替(とりかふ)べし。尤(もつとも)冬(ふゆ)は炬燵(こたつ)の侍(そば)に寐(ね)させ置(おく)べし。但(たゞし)被(ふとん)にて
炬燵(こたつ)を隔(へだて)て。火気(くわき)の直(ぢか)に徹(とほ)らぬやうにすべし。
○痘疹(はうさう)は。出瘡(でもの)の光彩(いろつや)を察(み)るを第一(だいゝち)とす。然(しかる)に。俗家(ぞくか)
痘児(はうさうにん)の面部(かほ)へ。臙脂(べに)を塗(ぬり)て祥兆(まじなひ)とす。左(さ)あるときは。
色沢(いろつや)明(あきらか)にみへ分(わか)らず。
○房内(ねや)の雨戸(あまど)障子(しやうじ)襖(ふすま)をたてきりて。天日(てんひ)の強(つよ)く照(てり)
入(いら)ぬやうにして。灯火(ともしび)を昼夜(ちうや)点(てら)し置(おく)べし。
○土地(とち)の風俗(ふうぞく)によりて。蒼朮(さうぢゆつ)沈香(ぢんかう)抹香(まつかう)艾葉(もぐさ)鳳尾蕉(そてつ)
柊(ひゝらぎ)干鰯(ほしいわし)の類(たぐひ)を。薫物(たきもの)にするあり。いづれもそのにほひ。
痘疹(はうさう)に宜(よろし)からず。但(ただ)荊芥(けいがい)茵陳(いんちん)大棗(たいさう)を焚(たく)を。よしとす。
○父母(ちゝはゝ)傍人(かいはうにん)ともに。厠(かはや)に行帰(ゆきかへ)らば。次(つぎ)の間(ま)にて。荊芥(けいがい)を焚(たき)
薫(ふすべ)て。不浄(ふじやう)の気(き)をはらひて。房内(ねや)に入(いる)べし。
○四時(しじ)の気候(きこう)によりて。衣服(きせもの)よろしきに叶(かな)ふやうに。は
からふべし。但(ただし)暑中(しよちう)なればとて。風(かぜ)吹(ふく)所(ところ)へつれゆく事(こと)。
かたく禁(きん)ずべし。又(また)団扇(うちは)五明(あふぎ)にてあふぐ事(こと)をも忌(い)む。
夏(なつ)は昼夜(ひるよる)とも蚊幮(かや)を用(もちふ)べし。
○小児(せうに)の痘瘡(はうさう)に。父母(ちゝはゝ)傍人(かいはうにん)。痘児(はうさうにん)を懐(いだき)。堂中(ざしきうち)を徘徊(あちこちあるき)す
るもあり。或(あるひ)は始終(しじう)抱(だい)て坐(すわり)をる等(など)。何(いづ)れも宜(よろし)からず。夫(それ)
痘瘡(はうさう)は陰病(いんびやう)にて。静(しづか)なるをよしとす。躁(さわが)しきをきらふ。
故(かるがゆゑ)に昼夜(ひるよる)ともに安眠(よくねむり)。よく乳食(のみくひ)するを。第一(だいゝち)とす。抱(だき)
かゝへ居(を)れば。足腰(あしこし)酸疼(だるく)なるまゝに。右左(みぎひだり)に抱(だき)かへなど
現代語訳
れたならば、他のおむつで小児の腰から腹にかけて引き回し、しっかりと巻いて、下着の裾を上げておくべきである。また、あらかじめおむつを炬燵の布団の上、あるいは看病人の懐に入れて温めておいて取り替えるべきである。特に冬は炬燵のそばに寝かせておくべきである。ただし、布団で炬燵を隔てて、火気が直接通らないようにすべきである。
○痘疹は、発疹の色艶を観察することを第一とする。しかし、一般家庭では痘疹患者の顔に紅を塗って魔除けとする。そうすると色艶がはっきりと見分けられない。
○部屋の雨戸・障子・襖を閉め切って、太陽光が強く差し込まないようにして、灯火を昼夜点しておくべきである。
○土地の風俗によって、蒼朮・沈香・抹香・艾葉・鳳尾蕉・柊・干鰯の類を薫物にすることがある。いずれもその匂いは痘疹によくない。ただし荊芥・茵陳・大棗を焚くのはよい。
○父母・看病人ともに、厠に行って帰ったならば、次の間で荊芥を焚いて薫じて、不浄の気を祓ってから部屋に入るべきである。
○四季の気候によって、衣服が適切になるよう配慮すべきである。ただし暑中だからといって、風の吹く所へ連れて行くことは固く禁じるべきである。また団扇や扇であおぐことも忌む。夏は昼夜とも蚊帳を用いるべきである。
○小児の痘瘡に、父母・看病人が痘疹患者を抱いて座敷内を歩き回ることもある。あるいは始終抱いて座っているなど、いずれもよくない。そもそも痘瘡は陰病で、静かなのをよしとする。騒がしいのを嫌う。故に昼夜ともに安眠し、よく飲食することを第一とする。抱きかかえていれば、足腰がだるくなるので、右左に抱き替えなど
英語訳
If [the undergarments] become wet, use other diapers to wrap around the child's waist to abdomen area tightly, and tuck up the hem of the lower garments. Also, keep diapers warmed in advance on the kotatsu futon or in the caregiver's bosom for replacement. Especially in winter, let the child sleep beside the kotatsu. However, separate the kotatsu with futon so that the heat does not penetrate directly.
○In smallpox, observing the luster and color of the eruptions is of primary importance. However, common households apply rouge to the smallpox patient's face as a charm. When this is done, the color and luster cannot be clearly distinguished.
○Close the rain shutters, shoji screens, and fusuma doors of the room so that strong sunlight does not shine in, and keep a lamp lit day and night.
○Depending on local customs, some burn incense using sōjutsu (Atractylodes), frankincense, powdered incense, mugwort leaves, sago palm, holly, dried sardines, and similar items. All of these scents are not good for smallpox. However, burning keigai (Schizonepeta), inchinhao (Artemisia), and Chinese dates is good.
○When parents and caregivers return from the toilet, they should burn keigai incense in the next room to purify the impure qi before entering the sickroom.
○Arrange clothing appropriately according to the four seasons' climate. However, even in hot weather, it is strictly forbidden to take the patient to windy places. Also avoid fanning with uchiwa or folding fans. In summer, use mosquito nets both day and night.
○For children's smallpox, some parents and caregivers carry the smallpox patient and walk around the room. Some constantly hold and sit with the patient - none of these are good. Smallpox is a yin disease that prefers quietness. It dislikes disturbance. Therefore, sleeping well day and night and eating well should be the primary concern. If constantly holding the child, the legs and hips become sore, leading to switching the child from right to left...