翻刻
して。暫(しばらく)も静(しづか)ならず。小児(せうに)も熟睡(よくねいる)ことなりかたく。驚(おどろき)
やすし。又(また)は手足(てあし)の出瘡(でもの)など。擦破(すりやぶり)て灌漿(うみをもち)がたし。殊(こと)に
あちこちへ行(ゆく)とき。風寒(かぜ)にあたりやすし。夫(それ)故(ゆゑ)大小(だいせう)
便(べん)の時(とき)も。夏(なつ)は室内(ざしき)。冬(ふゆ)は炬燵(こたつ)の傍(そば)にて。便器(まる)を用(もちふ)べし。
よく〳〵風寒(ふうかん)を慎(つゝしみ)防(ふせぐ)べし。
○痘中(はうさうちう)熱身(からだ)手足(てあし)を按摩(なでさすり)する事(こと)。甚(はなはだ)わろし。よく〳〵
忌(いむ)べし。
○痘神(はうさうがみ)を祭(まつ)る事(こと)。西土(から)にてもある事(こと)なり。すべて神(かみ)
は不浄(ふじやう)を嫌(きら)ふものなれば。神(かみ)の果(はた)して有無(ありなし)は姑(しばらく)置(おい)て。
痘児(はうさうにん)の居間(ゐま)に。神(かみ)在(います)と思(おも)へば。自(おのづから)清浄(しやう〴〵)を心(こゝろ)懸(がく)る故(ゆゑ)。穢(ゑ)
気(き)に感(かん)ずる事(こと)なし薬治。然(しか)れども。神(かみ)のみに託(たく)して。薬治(くすり)
を忽(おろそか)にするは。愚(おろか)の甚(はなはだしき)なり。
○痘家(はうさう)諸般(いろ〳〵)忌(いみ)避(さく)べき事(こと)。左(ひだり)の如(ごと)し。
一/風寒(かぜ)穢気(けがれ)不浄(ふじやう)を避(さく)る事(こと)。尤(もつとも)緊要(きんえう)なり。
一/狐臭(わきが)ある人(ひと)。房内(ねや)に入(いる)事(こと)なかれ。
一/房内(ねやうち)にて。淫事(いんじ)をなす事(こと)なかれ。
一/人(ひと)の遠方(ゑんはう)より急(いそぎ)来(きた)る汗臭(あせのにほひ)を忌(いむ)。
一/溝(どぶ)圊(せついん)等(など)の不浄(ふじやう)を汲(くむ)臭(にほひ)を忌(いむ)。
一/婦人(ふじん)経水(つきやく)。新産(しんさん)の婦女(をんな)。産穢(さんゑ)の臭(にほひ)を嫌(きら)ふ。
一/悪瘡(わろきできもの)わづらふ人(ひと)の臭(にほひ)。幷(ならびに)膿汁(うみしる)つきし衣服(きもの)の臭(にほひ)
を忌(いむ)。
一/蚊(か)を焼(やき)。髪(かみ)を焼(やく)臭(にほひ)。又(また)油灯(ともしび)蠟燭(らふそく)紙燭(しそく)を吹消(ふきけし)たる
臭(にほひ)を忌(いむ)。
一/硫黄(いわう)麝香(じやかう)竜脳(りうなう)又(また)はかけ香(がう)のにほひを忌(いむ)。
現代語訳
して、しばらくも静かでなく、小児もよく眠ることが難しく、驚きやすい。また手足の発疹などを擦り破って化膿しがちである。特にあちこちへ行く時、風寒に当たりやすい。それ故、大小便の時も、夏は室内、冬は炬燵のそばで便器を用いるべきである。よくよく風寒を慎み防ぐべきである。
○痘疹中に身体や手足をマッサージすることは、甚だよくない。よくよく慎むべきである。
○痘神を祭ることは、中国でもあることである。すべて神は不浄を嫌うものなので、神が果たして存在するかどうかはしばらく置いておいて、痘疹患者の居間に神がいると思えば、自然と清浄を心がけるので、穢れの気に感染することはない。しかしながら、神のみに頼って、薬治療を疎かにするのは、愚かの極みである。
○痘疹の家で諸般にわたって忌み避けるべきことは、以下のとおりである。
一、風寒・穢気・不浄を避けることは、最も重要である。
一、腋臭のある人は、部屋に入ってはならない。
一、部屋内で、性行為をしてはならない。
一、人が遠方より急いで来る汗の匂いを忌む。
一、溝・厠などの不浄を汲む匂いを忌む。
一、婦人の月経、出産したばかりの女性の産穢の匂いを嫌う。
一、悪い腫れ物を患う人の匂い、並びに膿汁のついた衣服の匂いを忌む。
一、蚊を焼く匂い、髪を焼く匂い、また油灯・蠟燭・紙燭を吹き消した匂いを忌む。
一、硫黄・麝香・竜脳、またはお香の匂いを忌む。
英語訳
...and there is never a moment of quiet. The child cannot sleep well and is easily startled. Also, eruptions on the hands and feet tend to be rubbed and broken, leading to suppuration. Especially when going here and there, the patient is easily exposed to wind and cold. Therefore, even for urination and defecation, use a chamber pot indoors in summer and beside the kotatsu in winter. One must carefully guard against wind and cold.
○During smallpox, massaging the body, hands and feet is extremely bad. This should be strictly avoided.
○Worshipping the smallpox deity also occurs in China. Since all gods dislike impurity, setting aside whether gods truly exist or not, if one believes that a god resides in the smallpox patient's room, one will naturally be mindful of cleanliness and thus will not be infected by impure qi. However, relying solely on the gods while neglecting medical treatment is extremely foolish.
○Things that should be avoided in all aspects in a smallpox household are as follows:
1. Avoiding wind, cold, impure qi, and unclean things is most crucial.
1. People with body odor must not enter the sickroom.
1. Do not engage in sexual activity within the room.
1. Avoid the sweat smell of people who come hurriedly from distant places.
1. Avoid the smell from pumping sewage from ditches, latrines, etc.
1. Dislike the smell of women's menstruation and postpartum impurity of newly delivered women.
1. Avoid the smell of people suffering from malignant sores and clothing stained with pus.
1. Avoid the smell of burning mosquitoes, burning hair, and also the smell when oil lamps, candles, or paper torches are blown out.
1. Avoid the smell of sulfur, musk, borneol, and incense.