翻刻
ざかれり。然(しか)るに弁へなき婦女子等(ふぢよしら)の。周章(あわて)さはぐは
所理(ことはり)なれども。大丈夫(たいじやうぶ)の男子(なんし)。倶(とも)に狼狽(うろたへ)。高津生玉(かうづいくだま)
等に走(はし)り。上街(うえまち)天王寺の辺(ほと)りに逃(にぐ)るもあり。愚(をろか)の至り
といふべし。万が一川に水増地上(みづましちしやう)に浸(ひた)すとも。是を防(ふせ)ぐ
事何ぞ難(かた)からん哉。原来(もとより)水増あぶなくとも。稍減(やがてげん)ずる
ものなり。寄(よす)る波(なみ)は引と心得べし。又|今般横死(このたびわうし)の事は
巨濤市中(つなみしちう)に溢(あふ)れて没(ぼつ)するにはあらず。地震(ぢしん)の難(なん)を
避(さけ)んと船に遁(のが)れて。巨濤(つなみ)の為に溺(おぼ)れしにて。畢竟(ひつきやう)
飛で火に入の天命也。後世(こうせい)是をつたへ誤(あやま)る事なかれ。
尤其|活業(なりわひ)によつて船にありて。天災(てんさい)に死(し)するは水主(かこ)
船長(ふなをさ)の難風(なんぷう)にあへるに斉(ひと)しく。是|平生(つね)より覚悟(かくご)あるべし
○或人問云(あるひととふていはく)。かゝる天災ある事。何(なん)の故(ゆへ)にや。又此災禍(わざわひ)
にあひて死する事は。いかなる因縁(いんえん)にや。またこの
時にいたつて。如何(いかに)してのかるべきや。答(こた)へて曰(いは)く
夫天災(それてんさい)によつて横死(わうし)を遂(とぐ)る者は。天命にして。其
因により果(くわ)のなす所なり。すなはち因(いん)は種(たね)にして
果は実(み)なり。かならず其死すべき因(たね)あるべし。尚(なを)此天
命を除(よく)る法(ほふ)あり。後(のち)にくわしく記(しる)す