翻刻
繁(しげ)く。あるひは旱(ひでり)つゞき又は洪水(こうずい)に田圃(たはた)をつぶ
す。みなこれ天のいましめなり。尤偏鄙僻村(もつともへんぴへきそん)は人
篤実(とくじつ)にして正直(しやうぢき)なれども。都会繁花(とくはひはんくは)の地は諸(しよ)
国(こく)よりの寄合(よりあひ)ゆへ隣(となり)家の商人(あきふど)は筑紫(つくし)のうまれ
向(むか)ひの職人(しよくにん)は吾妻そだち。美濃(みの)と近江(あひみ)が寝(ね)て
語(かた)り。浪花(おほさか)うまれの人(ひと)すくなく。軒(のき)を列(なら)ぶる附合(つけあひ)も
薄情(はくじやう)にして実意(じつい)なく。貸者(かすもの)は高利(かうり)をむさぼり
借(か)る者(もの)は返(かへ)すことをおもはず。売者(うるもの)は欺(だま)す事を工(く)
夫(ふう)し買者(かふもの)は売人(うりて)のよわみに附こみ。金(かね)で頰(つら)はる
無理応対(むりおうたい)。金(かね)がほしさに損(そん)をして是非(ぜひ□)なく手(て)を
うつ節季(せつき)まへまだ胴欲(どうよく)は品物(しなもの)を味(うま)く取(とり)こみ
價(あたい)を渡(わた)さず。あるひは物(もの)の拂底(ふつてい)を考(かんが)へ買(かい)しめ置(おい)
て世利売(せりうり)し己(をの)が一個(いつこ)の利潤(りじゆん)にまよひ数萬(すまん)の
人(ひと)の愁(うれ)ひを思(おも)はず。人は転(こけ)ふが倒(たふ)れふが我(われ)さへよ
くば宜(よい)にして欲(よく)に心(こゝろ)も暗(くら)まぎれ。道(みち)をうしなふ人
多(おほ)く又|相応(さうおう)にくらしながら。節季(せつき)の拂(はらひ)に不(ふ)そく
銭(ぜに)。金(きん)の相庭(さうば)に仕(し)かけをなす。薄口銭(うすこうせん)の商人(あきふど)その日(ひ)
ぐらしの下職人彼是(したしよくにんかれこれ)いふたら御機(ごき)げんが損(そこね)ふかとて