翻刻
ほどこすにおいては。たとへ天命(てんめい)の因果(いんぐわ)ありとも
かならず改(あたら)まりて。災殃(わざわひ)を逃(のが)るべし。惣(すべ)て我味(わがうま)きと
思(おも)ふものは他(ひと)にも味(うま)し。苦(にが)きものは上下(しやうか)ともに苦(にが)
し。楽(たの)しむことは上下(しやうか)ともたのしくかなしむことは
上下(しやうか)ともに哀(かな)し。されば恕(じよ)の字(じ)は心(こゝろ)のごとくと書(かき)て
思(おも)ひやるの意(こゝろ)にて己(をの)がいやとおもふことは。人(ひと)に施(ほどこ)す事
なかれといふ儀(ぎ)なり。諺(ことわざ)にいふ我身(わかみ)つめりて人(ひと)の痛(いた)
さを知(し)れとかやおのれが好(この)む所(ところ)は他人(たにん)も好(この)む所(ところ)にて
貴賎(きせん)ともにかわることなく。是人情(これにんじやう)なり。しかるをこの
人情(にんじやう)をかきて。他人(たにん)は暑(あつ)くとも寒(さむ)くともかまわず。
われのみ暑(あつ)くなく寒(さむ)くなく味(うま)き物(もの)を喰(くひ)さへす
ればよきと。おもひやりなき人は。家内一統他人(かないいつたうたにん)は原(もと)
より。帰伏(きふく)せざれば損失多(そんしつおほ)く。此人(このひと)かならず天(てん)の罰(ばつ)
を蒙(かうふ)るべし。唯慈悲(たゞじひ)の心(こゝろ)を第(だひ)一とし。常(つね)に陰徳(いんとく)を施(ほどこ)
し。上(かみ)を敬(うやま)ひ下(しも)をあわれみ借(かり)たるは速(すみや)かに返(かへ)し。生(しやう)
あるものを殺(ころ)さず。牛馬(きうば)をむごく責(せめ)つかひ。罪(つみ)なきに
犬(いぬ)を打擲(うちたゝ)き。欲のなぐさみに鶏(とり)を蹴(け)あはせなど。か
ならずしもすべからず