翻刻
光を通ぜすなをこれよりして奥をきはむるに道数条
を分つ其中の一路はるかに望むに巨物の蛇蜒蠕動せ
るあり蓋し蛇の類ならん又一路ハ多く薬草繁茂せる
あり衆これに近づきすゝむに遥に一物を見る朦朧とし
て其形あたかも婦人に類す衆のすゝまんとするを
見てすなはち石を拾ひてこれに擲らつに前にす
すめる者の面にあたりて血を出す衆ミなおそれていはく
これ蓋し妖魔の棲む地なるへしさきの巨人の屍骨
を以て知るへし早く退き帰るにしかすと則相共
にまた絙をしるべとして狼狽して洞を退き出つ
洞口を出るにおよひて衆人ミな面色灰の如し漸くに
にして元に復し相携へて家に帰るついに其洞底
の事状をきはむる事を得すといふ
「ドミチア二ュス」帝方士を誅する説
昔邏馬の「フラヒウス」帝およひ其子チチュス」帝は共に
賢才にして仁徳あり国人すへてこれに帰服すし
かるに「チチュす」帝殂して子なし其弟「ドチア二ュス」
位を嗣く此帝ハその父兄には異にして残虐淫蕩に
にして驕をきはめ戦を好ミ殺す事を嗜ミ多
く賢民の士およひ法教の徒を残害し罪なくして
刑にあふもの甚多し国人すへて怨愁せさる者な
し時に星象を観てよく前知の術をなす方士