翻刻
気を軋(キシリ)て鳴也又人の声|笙笛(シヤウフヘ)の吹(フク)に
依て声あるは是皆気の形をきしる也
《割書:吹は気ナリ|笙笛は形也》是等(コレラ)の類物に感(カン)するの自然に
して言語(ゴンゴ)に述(ノベ)て其音の形を言難(イヒカタ)し
大|虚(ゾラ)の風は声のみ聞へて終(ツイ)に其形を
見る事なし是あやしむべき事也と
いへども人常に聞馴(キヽナレ)て怪(アヤシミ)とせず世中(ヨノナカ)
に本(モト)を捨(ステ)て末(スヘ)に走者多(ハシルモノヲヽ)し只(たヽ)万事
逐一(チクイチ)に其理を窮(キワム)るを可(カ)なりとす又|谷音(コタマ)
を木の精(セイ)也と云事|和漢(ワカン)ともに云伝へり
然れとも皆|妄誕(モウタン)の説(セツ)にして語(カタル)にたらす
白澤(ハクタク)の図(ヅ)には木の精(セイ)を名付て封侯(ホウコウ)といふ
状黒狗(カタチクロイヌ)のごとく尾なし煮(ニ)て食(クラフ)へしと又
千年に成ル木の精(セイ)を賈油(カユ)といふ状豚(カタチイノニ)のこと
く味狗(アチイヌ)のことしとあり又|捜神記(ソウジンキ)に呉(ゴ)の
敬叔(ケイシユク)といふ者大キ成|樟樹(クスノキ)を伐(キリ)しかばその