翻刻
おもしろし又|蟸海集(レイカイシウ)に凡|日子(ヒネ)に臨(ソ)む時は
海水必起(カイスイカナラスヲユ)る但(タシ)上十五日は昼(ヒル)を潮(テウ)とし夜(ヨル)を
汐(シヤク)とす下十五日は昼(ヒル)を汐(シヤク)とし夜(ヨル)を潮(テウ)とす
此時月皆|子午(ネムマ)の位(クライ)也とあり如是(カクノコトク)説まち
〳〵なりといへとも愚案(グアン)には天地の呼吸(コキウ)と
いへる説(せつ)を可(カ)也とす山海経水経等(センガイキヤウスイキヤウトウ)に載(ノ)する
がごとき海鰌(カイシウ)の洞(ホラ)より出る時は潮干洞(シホヒホラ)に
入る時は潮満(シホミツ)る抔といへるは異説怪誕(イセツクワイタン)に
していふにたらす何ンぞ大|魚(キヨ)の出入によつて
天地の潮異(ウシホコト)なる事あらんや五雑俎(ゴザツソ)には
潮汐(チヤウシヤク)の説誠(セツマコト)に窮(キワメ)詰|難(ガタ)し然るに近浦(チカキウラ)
浅(アサ)き岸(キシ)のみ其|満干(ミチヒ)を見る大海の體(かたち)は誠に
一毫(イチゴウ)も増減(ゾウゲン)なしと述(ノヘ)たり是をもつて見
れば弥天地の一|呼(コ)一|吸(キウ)といふ理に過(スギ)す譬(タトヘ)は
人の鼻息(ハナイキ)のごとく出たる息何地(イキイヅチ)へ往(ユキ)しぞと
尋(タツヌ)れども其|泄(モルヽ)所を窮(キハメ)知る事ならさる