翻刻
復宮室(マタキウシツ)あらんや鮫宇貝闕(カウウバイケツ)必人の
家(イヘ)のごとくに云|有(アル)べからず愚俗(グソク)の不(フ)
経(ケイ)なり実(シツ)に龍宮(リウクウ)ありと思へり又|小窓(シヤウソウ)
別記(ベツキ)ニ曰|南海(ナンカイ)の外に鮫人(カウジン)といふ
ものあり形(カタチ)は人にして水に住事魚(スムコトウヲ)の
ごとし織続(ハタヲリヲウム)事を廃(ステ)ずいつれも
服(フク)を着(キ)る泣時(ナクトキ)は涙珠(ナミタタマ)を長(ナガ)すと
あり龍宮(リウクウ)といふも是等(コレラ)のもの
語(カタリ)に似(ニ)たりそれともにたしかならざる説(セツ)
なり本朝(ホンテウ)には地神(ヂジン)四代|彦火火出見(ヒコホ〻デミ)の尊(ミコト)
あるとき兄(コノカミ)の火闌降(ホノスソリ)の命(ミコト)の釣針(ツリハリ)を借(カリ)て
釣(ツリ)したまひしが兄(コノカミ)に借(カリ)給ひし釣針(ツリハリ)を
魚(ウヲ)に取(ト)られ給ひぬ是によつて剱(ツルギ)をくづし
て釣針(ツリハリ)を造(ツク)り兄(コノカミ)に返(カヘ)し給ひけれとも
火闌降(ホノスソリ)の命忿(ミコトイカリ)り給ひて本(モト)の釣針を
かへし給へと急責(セメハタ)らる故(ユヘ)に火火出見(ホヽデミ)の尊(ミコト)