翻刻!草双紙の世界

コレクション: NDL鳥居清長

通風伊勢物語 : 3巻 - 翻刻

通風伊勢物語 : 3巻 - ページ 16

ページ: 16

翻刻

【右頁上】 徳右衛門は幸介を つれかへりいろ〳〵と いけんしていんきよ 所もわび事いゝて かしもとでを つかはしせは いたしたきと【世話いたしたき】 ねがいければ いんきよふ うふも とくべいが じんしんに【仁心に】 めんじ【免じ】どふ なりとも せよと ゆるし けるゆへ 元手を あたへ 同町へ みせ をだ させ 持 や【持屋】 させ し 【左頁】 に幸介も 今になつ て我身の たわけを くやみかせ ぎしかば わつか【僅か】の 内に利■ してたん〳〵【段々】と はんじやうしける誠に 二人なからつれ たちはなつたらし【洟たらし】のじぶん【時分】 いせ【伊勢】より江戸へきてひとの心は きついちかい【違い】な物にてあくし【悪事】 をなし主人のおんをすてかけ おち【欠落=逃亡】したると主人の子となり 家をつぐとは下た【下駄】とやきみそ【焼き味噌】【板につけて焼いた味噌の形は、下駄に似ているが、実際は違うところから、形は似ていても、内容はまったく違っていることのたとえ。】ほ どのちかいなれどもすへにはんぢやう せしはふしぎこれもよくしん【欲心】でせすたゞ こうしよく【好色】のみゆへ神のめぐみと見へたり それたからお子様方も おヽきくなりなさつ ても女郎買いちつ とづゝなさつてもよく かけ事はほう引【宝引き、福引】も正月 の内計りがようこさいます 【右頁下】 早荷かつきました大 ひやう 五十俵 こゝへつんで おき ます 【右頁中から左頁】 いよ〳〵幸介 塩屋はんしやうせしも ふしぎ此時より うぬぼれを 塩やといふ ことはじまる 【左頁丁稚台詞】 ごたいき〳〵【御大儀「ご」は接頭語 人の行為をねぎらっていう語。 ごくろうさま。】 ちやでも のまつしやれ

現代語訳

【右頁上】 徳右衛門は幸介を連れ帰り、いろいろと意見して隠居所にも詫び事を言って、「下僕として使わせていただき、世話いたしたい」と願ったところ、隠居夫婦も徳兵衛の仁心に免じて「どうなりとも好きにせよ」と許可したので、元手を与えて同じ町に店を出させ、持屋をさせた。 【左頁】 幸介も今になって我が身の愚かさを悔やみ、稼ぎ始めたところ、わずかの間に利益を上げて段々と繁盛した。まことに二人とも連れ立って鼻を垂らしていた子供の時分、伊勢より江戸へ来て、人の心は大きく違うもので、悪事をなし主人の恩を捨てて逃亡したのと、主人の子となり家を継ぐのとは、下駄と焼き味噌ほどの違いがあるけれども、結局繁盛したのは不思議である。これも欲心ではなく、ただ好色のみゆえ、神の恵みと見えた。それだから「お子様方も大きくなられても、女郎買いはちっとずつなさってもよく、賭け事は宝引きも正月の内だけがようございます」 【右頁下】 「早荷を担いできました。大俵五十俵、ここへ積んでおきます」 【右頁中から左頁】 いよいよ幸介、塩屋が繁盛したのも不思議。この時より「うぬぼれを塩屋」ということが始まる。 【左頁丁稚台詞】 「ご苦労様です。茶でも飲みなさい」

英語訳

【Right page top】 Tokuemon took Kōsuke home and gave him various advice, apologized to the retirement quarters, and requested, "Please let me employ him as a servant and take care of him." The retired couple, out of consideration for Tokubei's benevolent heart, permitted it saying "Do as you please." So he provided startup capital, had him open a shop in the same town, and made him operate a teahouse. 【Left page】 Kōsuke, now regretting his past foolishness, began working earnestly. In just a short time, he made profits and gradually prospered. Truly, when both of them came together from Ise to Edo as snot-nosed children, people's hearts are vastly different - there's as much difference between committing evil deeds, abandoning one's master's kindness and fleeing, versus becoming the master's heir and inheriting the house, as there is between wooden clogs and grilled miso paste. Yet it's mysterious that he ultimately prospered. This too seems not from greed but merely from amorous pursuits - it appears to be divine blessing. Therefore, "Even when your children grow up, it's fine to patronize courtesans little by little, but for gambling, even lottery drawings should only be during New Year." 【Right page bottom】 "I've carried the express cargo here. Fifty large bales - I'll stack them here." 【Right page middle to left page】 Indeed, it's mysterious how Kōsuke's salt shop prospered. From this time began the saying "conceited salt merchant." 【Left page - apprentice's dialogue】 "Thank you for your hard work. Please have some tea."