翻刻
【右丁】
いきかよひければ。みな人聞てわらひけり。つとめて((つきのあした也)とのもづかさの見るに。
くつはとりておくになげ((あくる朝番所へ帰りくつをなけ入番をつとめたるかほをする也)入てのぼりぬ。かくかたはにしつゝ有わたるに((かやうに放埓のさまにのみ有わたる也)。
身もいたづらに成ぬべければ。つゐにほろび((后の先の詞也思外含て也)ぬべしとて。此男いかにせん。
わが かゝる((たへかぬる心を也)心やめ給へと。仏神にも申けれど。いやまさりにのみ覚えつゝ。
猶わりなく。こひしうのみおぼえければ。おんやうじ。かん((神子也)なぎよびて恋
せじといふ。はらへの ぐし((やく也)てなん いきける((かはべに行也)。はらへけるまゝに。いとゞかなしきこと。
数まさりて。有しよりけに。((稀の字有しよりまさりて也けを侍る也)こひしくのみおぼえけれは
《割書:古今》こひせじとみたらし川にせしみそぎ神はうけずも成にけるかな
といひてなんいにける
此 みか((清和也)どは。かほかたちよくおはしまして。仏の音(ミ)名(ナ)を御 ̄ン心に入て御
こゑはいとたうとくて。申給ふをきゝて。女はい((二条后也)たうなきけり。かゝる君
につかうまつらで。すく((宿世也)せつたなくかなしきこと。此男にほだされてと
てなんなきける。かゝるほどに。みかど聞しめし付て。此男((罪のこと国史に見えす)をばながしつか
【左丁】
はしてげれば此女のいとこの みやす((染殿の后也)所。女をば((二条后也)まかでさ((大内を出して也)せて くらに((ふかき所也)こめて
しほり((こらし給ふ也)給ふければ。蔵にこもりてなく
《割書:古今》あまのかるもにすむ虫のわれからとねをこそなかめ世をばうらみじ
となきをれば。此男は人の国((ながされたる所也実の配所にはあらさる也)より夜ごとにきつゝ。ふえをいとおもしろく
吹て。こゑは おかし((おもしろく也)うてぞ。あはれにうたひける。かゝれば。此女はくらにこ
もりながら。それにぞあなる((なりひらにて有也と也)とはきけど。あひ見るべきにもあらでなん有ける
さりともと思ふらんこそかなしけれあるにもあらぬ身をしらずして
と思ひをり。男は女しあはね((しは休字也)ばかくしありきつゝ。人の国にありきて かくうたに((かやうによむ也)
いたづらに行てはきぬるものゆへに見まくほしさにいざなはれつゝ
水のお((清和也)御 ̄ン時なるべし。大みやすん所も。そめ殿の后也。五条のきさきとも((五条にすまはせ給ふ故也)
(六十六) むかし。男。つの国にしる((知り所也)所有けるに。あにをとゝ友だちひきゐて。
なにはのかたにいきけり。なぎさを見れば。ふねgどものあるを見て
《割書:後撰》なにはつをけさこそみつのうらごとに是や此よをうみわたるふね