翻刻
新之丞は
いつもの
とをりに
きたり
滝川に
あいけれは
ついぞなく
ふん〳〵と
してなにか
わからずがてんの
ゆかぬ事と
おもひこいなれは
こそあやまり
ぐち
なんと
いふても
つん〳〵
と
ばかり
もし
また
うちへ
でも
いくと
いふものでもあるかと
といかくればなにとも
あいさつもせすくつと
かんしやくをおこし
ふんごふし【豊後節?】のやうに
あとであやまる
つもりにて
したゝかちやうちゃく
すれど
うむの
あいさつも
せづさては
ほかによい
きやくが
あつてあいそ
つかしとみへた
そふとは
ゆめにも
しらなんだ
ま事の
ちく
しやう
めと
はら
たち
かへり
けり
【台詞】
見さげ
はてたちく
しやうめ
忠二
おとろき
かけきたる
現代語訳
新之丞はいつものとおりにやって来て、滝川に会うと、今まで見たことがないほどふんふんとして、何かわからず合点のいかない事だと思い、恋仲だからこそ謝り口などと何を言ってもつんつんとばかり。もしかしてまた家へでも行くというものでもあるかと問いかけても、何とも挨拶もせず、ぐっと癇癪を起こし、豊後節のようにあとで謝るつもりで、したたか調子に乗るけれど、うんともすんとも挨拶もしない。さてはほかによい客があって愛想尽かしと見えた。そうとは夢にも知らなかった。まことの畜生めと腹立ち、帰ってしまった。
【台詞】
「見下げ果てた畜生め」
忠二は驚いてかけてきた。
英語訳
Shin'nosuke came as usual, and when he met Takigawa, she was huffing and puffing in a way he had never seen before. Thinking there was something he couldn't understand or make sense of, he assumed it was lovers' quarrel talk requiring an apology, but no matter what he said, she only responded coldly. Even when he asked if she might be planning to go home or somewhere else, she gave no greeting at all, became irritated, and like a Bungo-bushi performance, he acted boldly thinking he would apologize later. But since she wouldn't even grunt in response, it seemed that she had another good customer and was giving him the cold shoulder. He never dreamed this was the case. "What a damn beast!" he thought angrily and left.
[Dialogue]
"You contemptible beast!"
Chuji came running in surprise.